海外編

欧州の再生可能エネルギー事情

欧州連合(EU)は、エネルギー自給率の改善による安定供給の確保や地球環境保全の観点から、特に1990年代後半より再生可能エネルギーの推進に力を入れており、2007年3月の欧州理事会(EU首脳会議)では、2020年までに(1)EU単独で温室効果ガス排出量を1990年比20%削減、(2)最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギー比率を20%に引き上げ、(3)総エネルギー消費を20%削減すべくエネルギー効率改善などからなるEU環境目標(いわゆる「トリプル20」)に合意した。

これらの目標実現に向け欧州委員会は、2008年1月に「気候変動パッケージ案」を発表、同パッケージは欧州議会(2008年12月)、閣僚理事会(2009年4月)での採択を経て成立に至った。同パッケージに合まれている「再生可能エネルギーの推進に関する指令]では、ヒートポンプ利用によりくみ上げられる熱エネルギー(空気・地中・水)を再生可能エネルギーとして扱うことが明文化されている。

「再生可能エネルギーの推進に関する指令」の概要

2008年1月23日、欧州委員会によって発表された気候変動パッケージの中でも特に重要と位置付けられる「再生可能エネルギーの推進に関する指令案」(原案)では、2020年までに最終エネルギー消費の再生可能エネルギー比率を20%とするEU大の目標実現に向け、再生可能エネルギーを普及促進するための共通枠組みが規定された。その後、年内での合意が目指され、欧州委員会・閣僚理事会・欧州議会による協議ならびに調整を経て、欧州議会は、「再生可能エネルギーの推進に関する指令案」を修正の上で採択した(2008年12月17日)。

そして、閣僚理事会も同修正案を採択し(2009年4月6日、「再生可能エネルギーの推進に関する指令」は成立に至った。これによりEUのすべての加盟国で、ヒートポンプが利用する熱を再生可能エネルギーとして計上することが可能となるための法的基盤が整った。

ヒートポンプを再生可能エネルギーとして扱う欧州の状況

欧州のヒートポンプ市場

図:欧州のヒートポンプ市場

欧州のヒートポンプ市場は近年、急速に拡大しつつある。比較的データの信頼性が高いとされる8カ国の販売台数統計によれば、2007年に最も顕著に販売台数が伸びた国はイタリア(前年比+33%)、フランス(同+30%)、ノルウェー(同+27%)、フィンランド(同十25%)、オーストリア(同+15%)、他方、ドイツは2007年1月からの付加価値税の増税(+3%[16%→19%])の影響から+1.5%と微増、スイスはほぼ横ばい、市場飽和とされるスウェーデンは-23%となっているが、8カ国合計では392,756合(前年比+6%)となっている。ただし、この数字はやや控えめであり、専門家によればEU全体では、2007年の市場規模は50万台に近い数字と見込まれている(図)。

EUの再生可能エネルギー目標などに対する寄与度

欧州ヒートポンプ協会によれば、2008年から2020年までに新築・改築する全ての住宅(1世帯用)にヒートポンプが導入された場合(導入台数:7,000百合以上)、EU環境目標(トリプル20)に対するヒートポンプの寄与度としては、最終エネルギー消費量を9,020億kWh削減(電力換算)、再生可能エネルギーを7,720億kWh(電力換算)、温室効果ガス排出量を2.3億t-C02削減と試算、これらは各EU環境目標の約20%に相当するとされている(表4.1)。

以下、ヒートポンプを再生可能エネルギーとみなす国内法を整備したドイツ、ヒートポンプの無を再生可能エネルギーとして制度構築を検討しているイギリス、そして最もヒートポンプが普及しているスウェーデンを紹介する。

(1)ドイツ

ドイツでは、温室効果ガス排出量を2020年までに1990年比40%削減を目標として掲げており、この目標達成のため2007年12月と2008年6月に「総合エネルギー・気候変動対策プログラム」を発表している。同プログラムの政策的枠組みの1つとして2008年7月、「再生可能エネルギー熱法」が成立した。同法は、現在(2006年)6%に過ぎない熱供給における再生可能エネルギー比率を2020年までに14%に引き上げることを目標としている。ヒートポンプを太陽光発電や太陽熱、バイオマスなどと同様に再生可能エネルギーとして定義した上で、新築建物における再生可能エネルギーによる熱利用を一定の割合で義務付ける同法が、2009年1月に施行されている。「再生可能エネルギー熱法」の概要新築建物の再生可能エネルギーによる熱利用を一定割合で義務付けており、再生可能エネルギー種別に応じ、義務履行の割合が設定される。

太陽熱:熱需要の15%。ただし、1世帯ないし2世帯住宅については太陽熱集熱器 パネルの面積が利用面積(建物において熱需要が発生する対象面積)の4%、3世帯以上の住宅については太陽熱泉熱器のパネルの面積が利用面積の3%であることが条件。
バイオガス:同30%
固形バイオマス、バイオ燃料:同50%
ヒートポンプ:同50%。ただし、以下の年間エネルギー消費効率(SPF)を満たすものであることが条件。
―空気/水及び空気/空気ヒートポンプの場合:3.5(給湯用途は3.3)
―他の全てのヒートポンプの場合:4.0(給湯用途は3.8)

(2)イギリス

イギリスでは、2009年7月に「英国の低炭素移行計画 (The UK Low Carbon Transition Plan) 」を発表し、C02排出量を2020年までに1990年比34%削減する目標を掲げている。
また、これに先立ち、2008年11月に成立した「エネルギー法(Energy Act)」では、電力・熱・運輸部門の再生可能エネルギー比率向上を目指し、(1)再生可能エネルギー購入義務制度、(2)固定員取義務制度、(3)再生可能熱エネルギーインセンティブ制度(RHL Renewable Heat lncentive)などが規定された。このうち(3)再生可能熱エネルギーインセンティブ制度(RHT)では、太陽熱やバイオマスなどと同様に太気熱・地中熱・水熱(ヒートポンプ)も再生可能エネルギーとして定義されている。
エネルギー市場の見通し
2008年11月に制定された「気候変動法(Climate Change Act)」の定めに従い、イギリス政府が発表した「炭素削減計画(Carbon Budget)」により、2020年までに電力、熱、運輸に関わる全エネルギーの15%を再生可能エネルギーにより賄うこととなっていたが、「英国の低炭素移行計画 」では、これを7倍に増加させる計画が打ち出された。
イギリスは電力の4分の3を石炭と天然ガスによって発電している。しかし、「英国の低炭素移行計画」によると、2050年までに、ほぼ全ての電力を再生可能エネルギー、原子力エネルギー、または、二酸化炭素回収・貯留(CCS)を伴う化石燃料エネルギーから供給するよう転換する必要がある。

本計画では、2020年までにイギリスの電力のおよそ40%を低炭素の電源で発電することを目指し、再生可能エネルギーについては、再生可能電力を2020年までに現在の5倍、電力供給の30%まで引き上げ、原子力については、新規立地計画を進めることとしている。
また、英国エネルギー・気候変動省(DECC : Department of Energy and Climate Change)は、2008年12月「エネルギー市場の見通し」(「Energy markets outlook」)を発表した。
これは、イギリスのエネルギー市場全体にかかる中長期の見通しをまとめたものであるが、第9章が「再生可能エネルギー」にあてられている。
本見通しでは、「再生可能エネルギー」として風力発電、バイオマス、バイオ燃料、波力・潮力発電、水力発電に加え、その他の再生可能エネルギー源として太陽熱、空気熱源ヒートポンプ、地中熱源ヒートポンプ、太陽光発電、マイクロ風力発電、マイクロ水力発電などが挙げられている。これらは、イギリス全体のエネルギー供給から見ると極めて小さいのが現状であるものの、数多くの場所でさまざまなエネルギー生産方法が利用可能である点を考えると、再生可能エネルギー利用とC02削減における目標を達成するにあたり、これらの持つ可能性は決して小さくないと指摘されている。

レポート報告:英国のヒートポンプ政策及び市場動向 駐日英国大使館 対英投資上級担当官 清水正基様(2012年1月4日公開) PDF

(3)スウェーデン

スウェーデン・エネルギー庁(STEM)は、2008年7月、「エネルギー指標2008(Energy lndicators 2008)」という報告書を発表した。この報告書は、同国のエネルギー政策のフォローアップとして2002年以降毎年発表されているものだが、今回の特集テーマは「再生可能エネルギー」である。
同報告書によれば、2006年に国内で消費された全エネルギーの43.3%が再生可能エネルギー起源とされ、この数字はEU加盟27カ国の中で最も高く、スウェーデンに続いてラトビア、フィンランドが、それぞれ35%、28.5%となっている。また、EU再生可能エネルギーの推進に関する指令」で示された2020年までに49%という目標水準にスウェーデンがすでに追っていることを示している。
ウェーデンで広く利用されている再生可能エネルギーは、木質バイオマス、水力発電、ヒートポンプ、有機廃棄物、バイオ燃料、風力などであり、特に再生可能エネルギー利用の増加を促す要因の1つとして、家庭で使われているエネルギーが、ヒートポンプやペレット(木くずや流木を原料とする成形燃料)利用の暖房システムなど、よりエネルギー効率の高い技術へと移ってきていることが挙げられている。

ヒートポンプによる再生可能エネルギー供給量は、1990年代後半より急激に増加しており、2006年時点でスウェーデンにおける最終エネルギー消費全体の約2%(電力換算:約80億kWh相当)を占めている。
また、スウェーデン・エネルギー庁の依頼によって識者がまとめた報告書では、ヒートポンプのストック量、エネルギー消費効率(COP)や稼働時間からヒートポンプの再生可能エネルギー量を簡単に推計できる手法を提案し、OECD(経済協力開発機構)/IEA(国際エネルギー機関)やEurostat(欧州委員会統計局)に対し、ヒートポンプによる再生可能エネルギー量を統計に盛り込むよう訴えている。
なお、同手法によって2007年にヒートポンプによって供給されたエネルギー量は、225億kWh(電力換算)、うち再生可能エネルギー量は150億kWh(電力換算)と試算されている。

このページの先頭へ▲