「顕熱比(SHF)」と「再熱負荷」

■顕熱比(SHF)とは

『解説コラム3-3冷暖房負荷にはどんなものがある(図-1 冷房状況のイメージ)』 を再掲します。

本図は家庭用のルームエアコンをイメージしたものですが、室内へ入ってくる顕熱および潜熱と等しい量の顕熱および潜熱を、それぞれルームエアコン(セントラル空調の場合は空調機)によって屋外へ汲み出せれば、室内の温湿度は一定に保てます。

即ち、【入ってくる熱(顕熱)=汲み出す熱(顕熱)】、および【入ってくる熱(潜熱)=汲み出す熱(潜熱) 】とすることで、本例では室内温湿度が26℃・50%(RH)で一定となります。

この“汲み出す熱”が冷房負荷(正確には除去熱量)に他なりません。汲み出す熱の顕熱分と潜熱分の和(全熱)に対する顕熱分の比を、顕熱比 (SHF:Sensible Heat Factor、式-(1))と呼びます。

冷房状況のイメージ

仮に、内部発熱などの人為的条件や、外気温湿度などの外界条件は変化なしとすると、冷房が停止したときの室温上昇および湿度(絶対湿度)上昇も、顕熱比は固定のまま変動する事を意味します。

『図-2基準温湿度と設計温湿度概念図(解説コラム3-4「基準温湿度」と「設計温湿度」より )』で言うと、室内温湿度を表す印が「基準温湿度」を起点に、顕熱比(SHF)線と平行に移動します。 換言すると、冷房を再開した場合にも、顕熱の変化量と潜熱の変化量のバランスを保って熱を除去していかないと、所望の室内温湿度(本例では26℃・50%(RH))に到達できない事になります。

従って、顕熱比(SHF) は、当該室の顕熱負荷が多いか潜熱負荷が多いかと言った、負荷の特性を表す指標になります。仮に顕熱比(SHF)が1(顕熱のみ)であると、印が「基準温湿度」を起点に左右水平に移動する事を、また、室内の潜熱負荷の割合が高いケースほど印が「基準温湿度」を起点に、傾きが勝った変動傾向を示します。

詳細は「空気線図の利用」に関する文献を参照して頂けると幸いです。

※図-2の 【顕熱比(SHF)が[1]の場合】 【顕熱比(SHF)が[0.7]の場合】 【顕熱比(SHF)が[0.4]の場合】 をクリックしていただくと、それぞれの基準温湿度の変動傾向を確認する事ができます。

■「再熱負荷」とは

前項、顕熱比(SHF)では、冷房状況を家庭用のルームエアコンでイメージした図-1を再掲しました。しかしながら家庭用のルームエアコンは、冷却コイルで顕熱も潜熱も取り除けますが、室内気温の安定を目的に運転制御されており、湿度については成り行き状態です。即ち、所望の室内温湿度(本例では26℃・50%(RH))に保つ機能を有していません。

前項で述べたように、室内へ入ってくる顕熱および潜熱と等しい量の顕熱および潜熱を、それぞれルームエアコン(セントラル空調の場合は空調機)によって屋外へ汲み出せれば、室内の温湿度は一定に保たれるわけですが、一般のルームエアコンは室内気温の保持を優先させるので冷却コイル温度は低く(例えば10℃程度)、冷却コイル表面で発生した多量の結露水を排出してしまう結果、室内は除湿過多(低湿度)状態を呈することが大半となります。

逆に、室内の湿度を優先させるように冷却コイル温度を高くすると、所望の室温に冷却できません。このように、顕熱比(SHF)に見合った潜熱の除去、顕熱の冷却が独立して制御できないルームエアコンは、冷房装置ではあるものの空調装置(温湿度調整、空気質調整の機能が必要)にはなり得ないのです(解説コラム3-1「空調機」と「エアコン(エアコンディショナー)」を参照)。ちなみに、ルームエアコンの除湿(ドライ)モードは、当初より除湿過多状態により結露水を排出し、過剰に冷却された空気を電気ヒーター等で加熱して、所望の温湿度状態を作り出しています。但し、一般に圧縮機や電気ヒーターはON/OFF制御レベルですので高い安定性は期待できません。この電気ヒーター等による加熱分、即ち「再加熱」は、内部発熱と同様に冷房負荷の構成要因となります。一般のルームエアコンの場合、冷房するという意味では、冷房モードよりもドライモードの消費電力が大きくなる由縁となります。

一方、セントラル空調においても、空調機の中で冷却と再熱が行われる点は、ルームエアコンのドライモードと同様です。しかし、負荷の大小に応じて、冷却コイルへの冷水流量 をコントロールすることで、「再加熱」なしに、所望の温湿度を作成することが可能です。 冷水温度を変化させることも可能ですが、水量変化に基づく制御方式の方がバルブ操作で済むため一般的です。いづれにせよ、負荷条件と空調コイルの熱特性も設計時に考慮する必要があります。

図-3に空調機内部における「冷水量」と「温湿度」変化の概念図を示します。再熱コイルによる「再熱負荷」により、顕熱比(SHF)に則った温湿度調整していることがお判り頂けることと思います。

空調機内部における「冷水量」と「温湿度」変化の概念図
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