相当外気温度(SAT)

■陽の当たる場所、当たらない場所


【写真-1】は、広州アジア競技大会(財団法人日本ソフトテニス連盟)の一コマです。
観客が日射の当たる席と当たらない席を選択する差異を見事に捉えた写真で、日射を避けたい“人の気持ち”が手に取るようにわかります。

写真-1


【写真-2】は、冷え込んだ札幌大通り公園(撮影:大野光太朗氏)の一コマです。
鳩が日射の当たる場所と当たらない場所を選択する差異を見事に捉えた写真で、日射を求める“鳩の気持ち”が手に取るようにわかります。

写真-2

■建物も日射の影響を受ける


上の二つの写真と同様に、建物も日射の影響をもろに受けます。
体に陽が当たると、陽の当たった着衣や皮膚の表面温度が上昇することは、日頃体験しているところです。人体同様、建物の外壁表面も日射が当たると温度が上昇します。
ただ、風の強弱によって、その上昇度合いは変化します。日向ぼっこの最中に、風が吹くと暖かさ(日射の効用)が低減されるのと同じです。
暖房時は、外壁を通じ室内から屋外へと熱の流れ(貫流熱流と言います)、即ち、熱損失が生じます。
その様相を、段階的に日射のない場合から、【図-1】温度差と熱流(貫流熱:暖房例)、で見てみましょう。
図中、緑色の線は温度の変化(温度プロフィール)を示します。

(1)室内気温と外気温が等しく、その温度差がゼロの時、貫流熱流は生じません【図-1(a)】。

図-1a


(2)日射は当たっていないが、室内外に1℃の温度差がある場合(室温>外気温の暖房時の例)、室内から屋外に向けて貫流熱流qが発生します 【図-1(b)】。
その大きさは、壁体材料の熱伝導性能(熱伝導率λ:[W/m・k])により異なり、金属壁面より木質壁面の方が小さな熱流になります。
このように室内外温度差1℃の時、壁面積1㎡あたり、1時間あたり流れる熱流qを《熱貫流率K:[W/m²・k] 》と言います。熱貫流率Kは外壁の伝熱性能の指標として用いられ、この数値が小さいほど、断熱性能が高いことを示しています。

図-1b


(3)室内外温度差が1℃より大きくなると、その温度差Δθ ℃に比例して貫流熱流qも大きくなります。即ち、熱貫流率KのΔθ倍の熱流、K× Δθが流れます 【図-1(c)】。
 壁全体では、壁面積A[㎡]を掛けます。

図-1c

■日射の影響(外壁が日向ぼっこした状態)を外気温度の効果として捉える


まず、室内外の温度差0℃、日射なしのケースで説明します【図-2(a)】。
室内外の温度差0℃、日射なし。ここで外壁に日射が当たったら、【図-2(b)】のように表面温度が上昇します。

図-2(a)

その温度上昇により、外壁表面から室内方向へ[室内方向]の、また屋外方向へ[屋外方向]の熱流が発生します。

図-2(b)

ここでは、建物と外界との熱授受がどうなるかを対象にしているので、室内方向の熱流[室内方向]のみに着目します。
[室内方向]と同等の貫流熱流を発生させる室内外の温度差Δθ℃ (tSAT-t室内)を仮想すると、日射の効果を外気温度の効果として捉えることができます【図-2(c)】。

図-2(c)

この仮想のtSATを相当外気温度(Sol-Air Temperature)と言います。この場合も、風が強いほど日射の効果は軽減され、tSATも低下します。日向ぼっこの最中に、風が吹くと暖かさ(日射の効用)が低減されることと同様です。

次に、室内外に温度差のある場合で、日射の強弱に応じ変化する状況を考えてみます。
図右下の[次へ]を押してみて下さい。

■相当外気温度tSATと壁の色


相当外気温度tSATに大きな影響を与える要因は前述した風速のほかに、壁の色(日射吸収率)があります。
太陽熱集熱器のように日射熱をより受けたい場合はつや消しの黒が用いられますが、逆に、日射熱の影響を避けたい場合は、ピカピカ面で日射を反射させます。白色壁の民家が並ぶエーゲ海の島々の美しさは格別ですが、生活の知恵として日射熱の緩和をもたらしています。
写真-3、写真-4の簡易な実験からも、色の差異による温度変化は一目瞭然でしょう。

写真-3


写真-4

■相当外気温度tSATと放射冷却(放射熱の授受)


ところで、冬になると天気予報で、“放射冷却”と言う用語が使われます。また、“夜露”と言う言葉を聞いたことがあるでしょう。
詳細は省きますが、すべての物体はその表面温度の4乗に比例した放射熱(ふく射熱)を常に放出してます。地球からも、建物からも、人体からも、氷からも、例外なく、放射熱を放出しています。

さて、【図-4】は氷柱で、【図-5】は暖炉です。氷柱に手をかざすと冷たく感じ、暖炉に手をかざすと暖かく感じることはおわかりでしょう。
これは、30数℃の手のひらから出る放射熱の授受において、相対的に、0℃の氷に手のひらからの放射熱を奪われ、逆に、数百℃の暖炉から出る放射熱は手のひらに熱を与えるからです。

図-4

図-5

同じように、地球と太陽は常に放射熱の授受を行っています。日射がある日中は太陽からの放射熱が勝るので地球は暖まり、日射の無い夜間は地球からの放射熱が勝り、地球は冷却される訳です。とりわけ、空気の澄んだ冬の晴れた日の明け方は冷却が卓越するので、天気予報では“放射冷却”として、低温の注意がなされます。

同様に、建物外表面でも日射の無い夜間は建物からの放射熱が勝り、建物は冷却されるわけです。従って、太陽が当たったとき外壁の表面温度が上昇すると同様に、夜間には建物からの放射熱により外壁の表面温度が下降します。

建物外壁に当たっていた日中の日射量や外壁の熱容量、あるいは外気風の状態などの条件により左右されますが、外壁の表面温度が外気温度より下がることも多く見かけます。
例えば、夜間に路上駐車していた車の表面が“夜露”により濡れることはよく体験しますが、これは車体からの放射熱によって、車の表面温度が外気の露点温度以下に低下し、結露して起きる現象です。

この現象は、日中の高温の太陽の代わりに、冷たい冷却面が存在すると仮想すれば(例えば、“冷たい太陽”と仮想)、相当外気温度を求めたと同様な過程で扱うことが可能です。

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