蓄熱槽効率が変動する要因について

本編では、2次側機器から戻ってくる冷水温度や蓄熱槽に接続された配管の位置が、蓄熱槽から取り出して利用可能となる熱量に影響することを紹介しました。実は、先に挙げた冷水温度差や配管位置以外にも「蓄熱槽効率」を変動させる要因があります。図-1(a),(b)に示す蓄熱槽モデルに対しコンピュータ解析を用いて、蓄熱槽効率に影響する別の要因をみていきます。

図1

 図-2に示す7℃の冷水で満たされた蓄熱槽へ、2次側機器から戻された冷水の温度、および流速が異なる組み合わせ(表-1)で、槽内に冷水を注水するという想定です。これは、ケース(1)として注水と槽内の温度差が大きく(14℃→7℃)流速が遅い、蓄熱槽効率が高くなる(良い)例、ケース(2)として注水と槽内の温度差が小さく(10℃→7℃)流速が速い、蓄熱槽効率が低くなる(悪い)例を想定しています。

 図-2ケース(1),ケース(2)に解析結果を示します。図-2ケース(1)注水と槽内の温度差が大きく流速が遅い場合、2次側機器から戻された14℃の冷水は、注水後、蓄熱槽水面全体に広がり、槽内上部から徐々に下降していくため、蓄熱槽内水がほぼ入れ替わる(一巡する)流出終了間際まで、7℃程度の冷水温度を維持し流出(取り出し)できていることがわかります。

 図-2ケース(2)注水と槽内の温度差が小さく流速が速い場合は、注水開始直後から向かい側の壁面にぶつかって蓄熱槽内を乱し、蓄熱槽から流出する冷水の温度は早く上昇していることがわかります。

図2

 図-3に流出終了時における蓄熱槽内温度プロフィールを示します。注水開始時点の温度プロフィルと、終了時点の温度プロフィルで囲まれた面積が、蓄熱槽内から取り出して2次側(空調機側)で利用可能となる熱量を表しています。注水の冷水温度が高く、流速が遅いケース(1)の方が熱量の面積が大きいことは明らかです。本編でも触れた通り、蓄熱槽効率は蓄熱槽内の理想的な蓄熱可能熱量(放熱利用熱量)を100%とした場合との比率であるため、図-4に示すように冷水温度差が大きく、流速が遅い場合ほど蓄熱槽効率は高く(良く)なり、より多くの熱量を使用できることがわかります。

図3 図4



 水の温度差と流速に応じた槽内水の混ざり度合いについて説明します。
 水の混ざり度合いを判断する指標として、蓄熱槽入口部におけるフルード数(Fr)と呼ばれる無次元数(式全体でみると、全要因の単位がキャンセルされる組み合わせ)があります。フルード数とは「流体の慣性力と浮力の比」を表す無次元数で、式-(1)に示す定義式で表せます。定義式の分子が慣性力(水の勢い)を、分母が浮力(水塊の浮沈程度)を表しています。フルード数が小さいほど、慣性力に比べて浮力が大きいことを意味しており、水槽内は混ざりにくくなります。

 逆に、フルード数が大きいほど、蓄熱槽内がかき混ざってしまうので、槽内に注水する流速を遅く、かつ温度差を大きくとることが、蓄熱槽効率を大きく(良く)するコツとなります。

 ちなみに、式-(2)に示すようにフルード数と同様、蓄熱槽内の混合度合を表す指標としてアルキメデス数(Ar)という別の無次元数があります。フルード数とアルキメデス数は逆数の関係となっています。フルード数が小さい、即ちアルキメデス数が大きいほど、蓄熱槽内の水は混ざり難いことを意味します。

図5式1式2



 水の流速に注目してみましょう。水の流速を調整するには、バルブを絞る方法などがありますが、近年ではポンプのインバーター化が進み、入力の電源周波数を可変させ、ポンプの回転速度を変えて流速を調整することが多くなっています。
 ここでは、流速と配管径が決まれば流量が自ずと定まる基本的原理を説明します。

 図-6に示す配管内を、(a)から(b)、(b)から(c)へと水が流れている場面を想像してください。(a)から(b)の配管径は太く、(b)から(c)の配管径は細いのですが、(a)から(b)を流れる水量と、(b)から(c)を流れる水量は同じなので(逃げようがないので)、当量の水を流すには、必然的に(b)から(c)での流速は速くならざるを得ません。川の流れも川幅が狭くなる渓谷では急流となるなど、様々な場面が容易に想像できると思います。

図6



 この関係は流体における質量保存則である「連続の式」式-(3)で表せます(図-7)。 図-6中、(a)地点における配管の断面積A(a)と流速V(a)(遅い)の積から定まる流量Qは、(c)地点における配管の断面積A(c)と流速V(c)(速い)の積と等量になります。

 式-(3)を展開し、流速を左辺に持ってくると式-(4)となるので、蓄熱槽内に注水される流速を遅くするには、入口の配管径(式-(1)でいう代表長さ)を、(後述する槽内水位などを勘案しながら)適切な範囲で太くすることが求められます。

図7式3式4

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