氷充填率(IPF)と蓄熱容量

 本編9章では、建物の運用に合わせて最適なシステムを選択することについて説明し、その中で水蓄熱と氷蓄熱を比較しました。このコラムでは、氷蓄熱について更に詳しく説明します。

 氷蓄熱では、蓄熱槽内の水に対する氷の割合を示す「氷充填率(IPF:Ice Packing Factor)」という概念があります。IPFは体積基準と質量基準で考えられますが、イメージのし易さから体積基準にて説明します。IPFは次の式で表すことが出来ます。

(氷の体積/蓄熱槽の水体積[IPF0%時の水体積])×100=IPF[%]


図1

 図-1(a)に示すように、蓄熱槽内に氷が全く存在しない状態はIPF0%です。逆に、蓄熱槽内の水が全て氷に変化した場合、図-1(b)に示すようにIPFは100%となります。氷体積と水体積が50:50であれば、図-1(c)のようにIPFは50%となります。

 本編では「氷蓄熱槽ならば、少ない容積に冷熱をギュッと詰め込むことができる。」と説明しました。では、氷蓄熱で冷熱をギュッと詰め込んだ結果、蓄熱槽がどの程度小さくなるか説明します。

図2

 図-2にIPFに対する蓄熱槽容積比を示します。蓄熱槽容積比は、水蓄熱のみ利用した場合の蓄熱槽容積(Vw)に対する氷蓄熱を利用した場合の蓄熱槽容積(Vi)の割合を表しています。また、Vwの時の冷水利用温度差を本例では7℃(7℃14℃)と10℃(4℃14℃)としています。
 冷水利用温度差を7℃設定とした水蓄熱を、IPFが20%の氷蓄熱(図中)に置き換えた場合、蓄熱槽容積については水蓄熱のみの蓄熱槽容積に対して2割程度(図中)に縮小できます。同様に、IPFが60%の時(図中③・緑点線)は、冷水利用温度差7℃で約1割に(図中)、冷水利用温度差10℃で約1.5割(図中⑤・橙点線)に縮小できます。水蓄熱のみに比べ、蓄熱槽容積が大幅に縮小されることがわかります。

 しかし、IPFは大きいほど蓄熱槽容積を縮小できるわけではありません。IPF60%(図中③・緑点線)と100%(図中⑥・紫点線)の時の蓄熱槽容積比の差(図中)に注目すると、蓄熱槽容積比が約5%でほぼ変わらないことが分かります。つまり、IPFを上げるために熱源機器を大きなものにしたところで、蓄熱槽容積を縮小する「うまみ」は薄くなります。

 続いて、IPFの計測方法について説明します。

図3

 IPFは、水と氷の体積差を利用して計測することが一般的です。
ここで、その「水と氷の体積差」について実験を用いて説明します。2本のメスシリンダーを用意し、両方に同量の水を入れます。(図3) 片方を冷凍庫に入れ、メスシリンダー内の水を全て氷に相変化させたところ、メスシリンダー内の氷の体積は、水の体積を100%とした場合と比較して約109%となりました。

 このように、水は氷に相変化すると、体積が増加するという特性を持っています。
蓄熱槽内の水中に氷がある場合、氷が無い場合と比べて水位が高くなるので、その水位差を比較してIPFを計算しています。

図4

 図-4に示す氷蓄熱槽の場合、水槽に設置した水位計にて増加した水位を計測し、変化量を氷量に置き換え、水中のIPFを計測しています。(水位計を用いた計測の他にも、水面からの超音波の跳ね返りや槽底部の水圧差を利用して水位変化を捉える方法も実用化されています。)

 氷蓄熱システムについては、蓄熱槽内に蓄氷するだけではなく、蓄熱槽内の氷を完全に使い切ること(完全融解)も重要です。
 外融式アイスオンコイル方式の場合、コイル表面上に氷を残したまま蓄氷運転を繰り返すと、残氷は日を増すごとに肥大化し、ついにはコイル周囲の隣接する氷と結合(ブリッジング)してしまいます。ブリッジングにより氷と冷水の接触面積が小さくなると、解氷時の熱交換効率の低下を招くほか、最悪、コイル等の破損にも繋がります。

 内融式アイスオンコイル方式の場合、コイル表面上に接した氷から解氷が始まるため、コイルと氷に閉ざされた冷水域が発生します。冷水域を残したまま放熱運転を終了・放置し、製氷運転を再開した場合、閉ざされた冷水域で再成長した氷は体積膨張の逃げ場が無くなり、最悪、製氷コイルやフレームなどの破損にもつながります。

 完全解氷の重要性は、スタティック方式を中心に触れられることが多いのですが、ダイナミック方式の場合も同様に重要となります。蓄熱槽内で融け残った氷が水面を覆い、肥大化を続けた結果、点検用マンホールを押しのけたという例もあります。

 これらを防ぐために、製氷量の事前の予測や完全解氷を行うための強制的な放熱運転を行う回路や制御を設ける必要があります。

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