今回紹介する、連結式縦型蓄熱槽は、都市型キャンパス開発時の与条件に応じて考案されたものであり、条件が異なれば別の方式が適する場合があります。そのため、本コラムではあくまで一例ではありますが、考案に至った背景と、世界初となる連結式縦型蓄熱槽の製作・施工のプロセスについて紹介・説明します。
東京電機大学東京千住キャンパスは、計画当初よりエコキャンパスを志向するうえでエネルギー源として電気を選択したことから、電力負荷平準化および省エネルギーの観点から「蓄熱システムの導入」は不可欠でした。一方で低コスト化および近隣への配慮のため工期圧縮も必須であり、「地下掘削量を最低限に抑える」必要がありました。
このような背景から、蓄熱システムを計画するにあたり、地下ピットを用いた蓄熱槽は最も広く採用されており実績のある方式ですが、地下掘削量が多くなり工期の長期化や掘り出した残土の処分費が課題となることから、別の方式を検討することとなりました。なお同時期に法律(土壌汚染対策法)が改正され、敷地外への残土持ち出しが厳しくなったことも大きく影響しました。
次いで、既存技術として一部で採用が見られる「自立式縦型蓄熱槽」の検討を行いました。自立式の縦型蓄熱槽は、建屋とは別に現場で並行して築造するため工期への影響は少ないという特徴を持ちます。さらに水頭圧を持っているため、災害時にはトイレ洗浄水へ、また火災時には消火用水への転用が可能であり、防災性能の向上が期待できます。しかしながら、蓄熱量確保のために容積を増やそうとすると、高さ方向を高くし、同時に平面方向にも大きくする必要(底面が大きくないと自立できない)があります。そのため本キャンパスのような都市部の建物で採用するにはスペース的に実現は困難でした。
そこで、上述の与条件を満足するために、運搬できる限界サイズの蓄熱槽を工場製作し、建物内で縦方向に接続することで一連の蓄熱槽として成立させる「連結式縦型蓄熱槽」を考察し、省スペースでありながら「地下掘削量の削減/工期の短縮」と「防災性能の向上」を実現しました。
この「連結式縦型蓄熱槽」は「自立式縦型蓄熱槽」を都市部で採用するのに適した方式として発展させたもので、本方式は世界でも初の試みです。したがって連結式縦型蓄熱槽の施工についてはこれまで前例がないため、蓄熱槽の検討は、設備設計担当のみならず構造設計担当および建築工事担当と共に、鉄骨部材製作の前段階より荷重の確認と据付方法に関して綿密な打合せを行い、潜在している問題点の早期洗い出しを行いました。
また、縦型蓄熱槽を据付ける建物の吹抜け空間が狭隘かつ高所であること、据付後の保温、ラッキング作業は困難であることが容易に想定されたため、工場で保温、ラッキングなどを行い、外装が仕上がった状態まで仕上げることとしました。結果として、外装仕上げまで工場で済ませ搬入据付を行ったため、工期短縮が実現しました。
このように考案された連結式縦型蓄熱槽は、同キャンパスの1期工事(1~4号館、2012年竣工)に導入されましたが、2期工事として建設された5号館(2017年竣工)ではさらに蓄熱量増大と蓄熱槽の運用方法のバリエーション拡大を目的に、一部の縦型蓄熱槽に製氷コイルを挿入しています。なお1期工事と同じく蓄熱槽は工期短縮のため工場製作しており、別工場で製作した製氷コイルを事前に組付けました。以降では、この最新の5号館の連結式縦型蓄熱槽について詳しく紹介します。
図-1に、東京電機大学東京千住キャンパス5号館に導入された「連結式縦型蓄熱槽」の概要図を示します。合計9基の蓄熱槽から構成されており、うち最上段に位置する3基が製氷コイルを有する水/氷切り替え槽となり、他6基は冷水/温水切り替え槽となっています。なお、これらの運用方法については次のコラムで紹介することとし、本コラムでは製作・施工の模様について紹介します。
図-2に、最上段の縦型氷蓄熱槽の各部寸法(高さ約8.2m・内径約2.6m)を示します。
蓄熱槽は地震時の揺れ幅を最小限にするため、中央部(重心)の周辺4箇所にリブが取り付けられ、そのリブで建物の構造体である梁に懸垂・固定しています。そのため階高(どの階の梁に載るのか)と搬送手段(トレーラーの大きさ)によって縦型蓄熱槽の大きさが決定されます。
図-1に示した蓄熱槽の大きさが異なるのはこの事由によります。なお各蓄熱槽同士の連結に関しては、地震の揺れに対応するためにゴム製のフレキシブルジョイントが設置されており、揺れを吸収することが可能となっています。
写真1~6に縦型蓄熱槽の工場製作状況を示します。縦型蓄熱槽は食品加工プラントなどで使用される汎用的なタンクと製作手順は同じです。蓄熱槽内外部ともにエポキシライニングを塗布し、専用窯で焼き付けを行った後に、ピンホール検査を行っています。
その後、写真7~9に示すように、氷蓄熱用の蓄熱槽に関しては、一度蓄熱槽を直立させてクレーンで製氷コイルを挿入します。
保温に関しては、写真10~11に示すように、100mmの押出し発泡ポリスチレンで断熱を行い、最終的にはガルバニウム鋼板でラッキングを行いました。
図-3に縦型蓄熱槽工場出荷から搬入据付の概念図と蓄熱槽仕様を示します。
縦型蓄熱槽の据付は上棟後、蓄熱槽が格納される吹抜け部分の上部からタワークレーンを使用し、縦型蓄熱槽据付位置へと45度横回転させて対角隙間を落とし込みました。
その際、鉄骨梁と固定足の隙間は50mm程度しかないので、細心の注意を払いながら1分間に1mのスピードで降下させました。搬入据付は蓄熱槽を一日あたり3~4基のペースで行いました。
写真-12~15に搬入据付時の様子を示します。
写真16~18に竣工後の設置状況を示します。