蓄熱槽の運用方法

 本編における「連結式縦型蓄熱槽」の紹介では、主に夏期ピーク時を対象とした運用方法を紹介しました。ただ、実際の運用では、(1)年間の空調負荷変動に伴う冷温水槽の切替え、また、(2)熱源機の運転効率向上を誘引する、および、(3)自然放熱を低減するために蓄熱温度および蓄熱量の変更を行っています。加えて、キャンパス内に設置した熱源を複合的に活用し、総合的な効率向上のための熱源機運転の選定といった、様々な運用の選択肢を駆使することでシステム効率向上を志向しています。そこで本コラムにおいては、連結式縦型蓄熱槽の運用方法についてもう少し詳しく説明します。

図1

 図-1に蓄熱システム(東京電機大学東京千住キャンパス5号館)の概要図を示します。蓄熱槽は全部で9槽設置されており、最上段の3槽[A群]にはアイスオンコイル方式の氷蓄熱槽(外融式)、残る6槽[B群]は冷温水切替え槽となっています。また同図左側の縦列4槽を上下に連結しており、残りの5槽も上下に連結していますが最上段[A群]の右2槽が並列となっています。なお図中破線(注釈*)で示した部分には電動弁が設置されており、最上段3槽[A群]と下段6槽[B群]とを異なる温度で運用することが可能となっています。

 熱源については、5号館の屋上にモジュール式の空冷HPを有しており、うち左側の3モジュール(ブライン仕様)は製氷コイルでの製氷(図中注釈①)と熱交換器を介した冷水供給(②)を行い、右側9モジュール(冷水仕様)は冷房(③)と暖房(④~⑥)を行います。なお暖房負荷が少ない時期には負荷に応じて温水を直送(④)しますが、さらなる暖房負荷の増加に対しては蓄熱温度を変更(⑤⇒⑥)して対応します。また温熱の熱源容量に余裕があり、かつ他の号館で温熱要求がある場合には、熱交換器を介して他の号館へ温熱熱供給(⑦)する一方で、2号館に設置されているインバータターボ冷凍機(キャンパス内で最も高効率)に余裕がある場合には熱交換器を介して冷熱供給(⑨)を受けます。

 このように、蓄熱槽と熱源機については様々な選択が可能となっています。以降で運用パターン別に説明します。




 図-2に蓄熱システムの運用方法別蓄熱量、効率、 蓄熱時間の比較を示します。

図2

 本編で紹介したのは夏期ピーク時です。

【1】夏期ピーク時には、最上段の3槽[A群]が氷蓄熱(潜熱量:最大IPF15%+顕熱量:0℃15℃)として、また下段の6槽[B群]は冷水槽(4℃15℃)として使用します。また蓄・放熱は左側縦列の4槽を1連として、また右側の5槽を1連として使用します。冷水蓄熱時には、キャンパス内で最も効率の良い1号館設置のインバータターボ冷凍機を使用したいところですが、夏期ピーク時は1~4号館への蓄熱に使用されてしまうので、5号館屋上にある空冷HPで9槽すべてをまず4℃まで冷却した後に、空冷ブラインヒートポンプで製氷コイルに着氷させます。蓄熱には約10時間を要し、蓄熱完了時の蓄熱量は概ね、最上段3槽で氷潜熱が21%と水顕熱が26%、残る6槽で水顕熱が53%となります。また蓄熱時の熱源機COPは空冷HPの冷水(15℃4℃)および製氷運転(-2℃-5℃)により約3.0となります。

【2】中間期で冷熱主体の時期には、必要蓄熱量は【1】と比べて約52%となりますが、氷蓄熱を使用せずに熱源機効率向上を目的に8℃の冷水を蓄熱します。またこのとき、1号館のインバータターボ冷凍機に余裕があれば、5号館屋上の空冷ブラインHP(熱交換器経由)とインバータターボ冷凍機での併用で蓄熱するため、COPは5.0~10.0を期待することができます。なお散発的な温水需要が発生した場合には空冷HPが直送で対応します。

【3】中間期で温熱が定常的に必要な時期には、最上段3槽[A群]と下部6槽[B群]を切り離して、上部を3槽並列の冷水槽、下部を3槽2連結の温水槽として使用します。このとき、冷水は【2】と同様に空冷ブラインHPとインバータターボ冷凍機で8℃蓄熱を、温水は空冷HPで40℃蓄熱を行います。また冷水の蓄熱量は【1】と比べて約14%、温熱量は約48%となり、蓄熱時間は約8時間を想定しています。なお冷水・温水共にピーク時と比べて温度緩和(冷水4℃8℃、温水45℃40℃)とすることで、熱源機COP約4.0を期待することができます。

【4】冬期ピーク時には、温熱負荷に対応するため【3】の温水蓄熱温度を45℃に昇温することにより、冷水蓄熱量は【1】と比べて約14%、温水蓄熱量熱は約72%となります。このとき散発的な冷熱負荷に対しては、空冷ブラインHPとインバータターボ冷凍機による8℃冷水蓄熱で対応します。なお空冷HPで行う温水蓄熱は45℃と高温になるため、 【3】と比べて熱源機効率は低下し、冷温合わせたCOPは約2.8となります。

 このように【1】~ 【4】の運用バリエーションを有する連結式縦型蓄熱槽は、従来の蓄熱システムの運用方法では対応することが難しかった冷温熱切替え時期の戸惑いを解消しつつ、温度緩和による熱源機効率向上と使い勝手および信頼性の向上を実現するシステムとなっています。



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