No.17 カーボンニュートラル実現に向けた蓄電池システムのマルチユース活用について

国際評価技術本部蓄電池技術企画課・客員調査員
1.はじめに
カーボンニュートラル実現のためには今後も再生可能エネルギーを増大し続け、かつCO2排出の大きな石炭や老朽の火力発電所を運用停止していく必要がある。この結果、電力系統では自然変動電源による周波数変動や余剰電力、旺盛なデータセンター増設に伴う送電線混雑等に対する対策が急がれている。この中で特に蓄電池システムは高速かつ高精度な充放電制御が可能であり、需要側に多く存在するこれらのリソースをうまく活用することによって社会経済的に最も安価に系統安定化を図っていくことが重要である。
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)では、蓄電池システムの健全な普及に向けて蓄電池の安全性等について日々試験を行いつつ、最近の蓄電池システムのマルチユース活用の現状と課題等についても検討してきた。その概要について説明する。
なお、本内容については蓄電池以外のヒートポンプや蓄熱等のマルチユース検討にも参考になると思われる。
2.蓄電池システムのマルチユース活用の検討概要
(1) 蓄電池システムのマルチユースとは何か。
蓄電池システムの「マルチユース(multi-use)」は漠然とした表現のため、「多目的利用(multipurpose use)」の方が適しているかもしれないが、既に多くの場で使われている言葉ではある。蓄電池システムとは、充放電を繰り返して行なえる蓄電池(二次電池)と電力系統の交流と蓄電池の直流を相互に変換する交直変換装置(PCS)との組合せであり、基本的に系統から充電して電力を貯めることと、その貯めた電力を好きな時に系統に放電することができるシステムである。需要家構内に蓄電池システムが設置された当初は通常において電力系統に接続して昼夜間で負荷を平準化する機能と、停電時に非常用電源として電力を一部負荷に供給する機能を両立してきたが、これも同じ蓄電池システムで行なうマルチユースといえる。さらに蓄電池の耐久性や性能が向上するとともに交直変換装置等のパワーエレクトロニクス技術・制御技術、通信技術やIoT技術の高度化によって蓄電池システムの充放電の高速性・高精度制御性を活かして、さまざまな電力系統の安定化や環境性向上に利用されるようになった。しかしながらこれらの機能をどのように組み合わせるかはそれぞれの事業者によって異なるため、マルチユースに対応する蓄電池システムに求められる仕様は明確になっていないのが実状である。
(2) NITEにおける蓄電池システムのマルチユース導入ガイド作成の経緯
NITEでは、2021年度に経済産業省から「電力システムの安定性向上に向けた蓄電池システムの評価に係る標準化調査」を受託した。この調査では電力システムに接続される蓄電池システムに対して、電力システムの安定性の視点から求められる多種多様な機能要求について調査を行い、これらへの適合を合理的に試験・評価する手法を、我が国における豊富な運用実績を踏まえ整理した。調査の結果、蓄電池システムは充放電の高速性・制御性が優れているため多くのユースケースが考えられ、さらに普及拡大していくためにマルチユースに期待が寄せられていたものの、マルチユースの仕様や評価方法が不明確でありその実現に多大な労力がかかるため、蓄電池システムの普及が進んでいないことが判明した。これを受けてNITEでは2022年度から「マルチユース評価ワーキンググループ(WG)」を立ち上げた。このWGでは、日本が有する優れた蓄電技術と運用技術を用いてマルチユース仕様とその評価方法を確立し、海外市場も見据えた蓄電池システム普及スキームの構築が必要であり、そのために蓄電池システムの用途や目的に応じた単一機能の組み合わせを調査することでマルチユースの類型化を行い、類型化したそれぞれの仕様やその評価方法、試験プラットフォームについての検討、さらに、その結果をとりまとめた報告書を「蓄電池システムのマルチユース導入ガイド」として2024年5月にNITEサイト(https://www.nite.go.jp/gcet/nlab/202405_oshirase.html)で公開した。
(3)単一機能の仕様抽出とマルチユース使用実態の洗い出し
蓄電池システムで従来から行なっている単一の運転機能と今後電力市場等の多くのシーンにおいて期待されるであろう今後の単一機能の項目と概要をまとめたのが表1である。さらに電力市場等で活用する事業者からのヒアリング によって、これらの単一機能ひとつひとつに対して、蓄電池システムの放電・待機・充電の各運転モードにおける応動スピード、継続時間、制御精度等について最低限必要となる要件・仕様を抽出した。
また、これと並行して蓄電池をマルチユースで活用している実態についても調査をおこなった。
(4)マルチユースの主な種類と蓄電池活用事業者のマルチユースニーズの整理
蓄電池システムはシステムとしての出力(kW)と貯蔵できる蓄電容量(kWh)に限りがあることから、やみくもに全ての機能を合わせて使うことはできない。合わせ方については蓄電池を活用する事業者(蓄電池所有者、蓄電池サービス事業者、アグリゲーター等)が最もメリットが得られる使い方を、蓄電池システムの出力・容量等の制約の範囲で組み合わせることになる。組合せ方の種類としては表2に示すとおり、同時刻マルチユース、時系列マルチユース、異常時マルチユースの3種類に分類される。
一方、蓄電池を活用する需要家、小売・アグリゲーター、系統運用者、発電事業者等の事業者にとって、達成したい目的に対して組み合わせたいマルチユースのニーズをヒアリングした結果が表3である。本来であれば全てを組み合わせたいところだが、蓄電池システムの出力・容量やマルチユースの種類の制約等があるので極力マルチ数を絞ったニーズの例としている。
(5)マルチユースにおける類型化
蓄電池やシステムメーカー側の立場からは、蓄電池システムの機器構成等のハード面と蓄電池システムの運用形態等の運転機能面からなるマトリクス化の検討をおこなった。
ハード面としては機器構成面から以下のA~Dに分類できる。
A:系統連系システム(自立運転機能なしで負荷と並列に系統に常時接続)
B:非常用電源対策機能システム(停電時に開閉器で系統と分離して自立運転)
C:瞬低対策システム(瞬低時に高速スイッチで系統と分離して自立・電圧維持)
D:系統安定化システム(系統に常時接続して系統擾乱時に安定化させる方向に動作)
運転機能面としては運転形態から以下のⅠ~Ⅲに分類できる。
Ⅰ:スケジュールによる自動運転(予めシステムに入力したスケジュールで運転)
Ⅱ:発動指令による遠隔運転(遠隔からの通信指令で充放電制御)
Ⅲ:自端制御による自律運転(自端の周波数・電圧等に応じて自律運転)
以上から蓄電池システムを4×3のマトリクスに分類して、さらに(3)で説明した蓄電池活用事業者によるマルチユース活用ニーズを色別に落し込んだものが図3である。現時点では、ハード的には非常電源対策機能(B:)、運転面からは外部からの発動指令運転機能(Ⅱ:)、すなわちⅡ-Bあたりの製品が最も汎用的なものであると推定できる。
(6)蓄電池システムのマルチユース検討に当たってのポイント
蓄電池システムは大きくは蓄電池と交直変換装置(PCS)、制御装置から成り立つが、それぞれの製造者(メーカー)が異なる場合がある。また所有者や蓄電池活用事業者等のユーザーも蓄電池の運用実績の少ない自治体や商社等をメインとなる場合がある。このためユーザー及びメーカーが直面している課題を整理すると主な論点として以下が挙げられる。これらはマルチユースになればなるほど重要な論点であると言える。
・ユーザーにとっての主な課題
メーカーが示す定格・容量・寿命・電池残量(SOC)の定義がメーカーによって異なる場合がある。また機器のコストに含まれる項目が明確でない。これらが明確でないと間違った試算・検討をしてしまい、納入先に損害を与える等のリスクを抱えてしまう。
・メーカーにとっての主な課題
ユーザーが蓄電池システムを実際にどのようなマルチユースで使いたいのか、またその仕様が不明確なため、メーカーのカクログ値ベースのやり取りしかできず、マルチユースの余地を狭めたり、過剰なマージンを持たせざるを得ない場合がある。
このようなユーザー・メーカー間で明確にすべきポイント事項について導入ガイドでは表4で簡単にまとめている。
3.蓄電池システムの健全な普及に向けたNITEの取り組み
(1)蓄電池システム普及の現状と課題
日本は蓄電池の開発・実用化において世界をリードする形であった。しかしながら、その後価格の安い中国・韓国のリチウムイオン電池が再生可能エネルギーとセットで導入することで政策面で先行する欧米の市場に台頭し、図3に示す通り最近の系統用の定置型蓄電池は米国・中国そして欧州で導入が加速されているが、日本においては普及がまだこれからというのが実情である。
一方、このように急拡大する海外での大型蓄電池システムにおいて、竣工試験や運開から数年で火災事故が多く発生していることも事実である。世界における火災事故の例を図4に示す。
このような実情に対して、蓄電池システムの関連メーカーによる弛まぬコストダウン努力や蓄電池設置者や活用事業者に対する国の補助金事業等が継続されており、これと並行して蓄電池システムの運用によるインセンティブ確保等につながる制度や市場が構築されつつある。これらによって運用価値を上げることは蓄電池システム普及に有効であるが、まだ出来て間もない市場でのマルチユース運用は市場価格の予見性が見えにくいことから蓄電池システムの普及拡大にあまり寄与していないのが実情である。
(2)蓄電池システムの国際標準化に向けた取り組み
蓄電池は一般的に電極材料や電解液に燃えやすい物質を使用することから、特に安全を目指した標準化が重要である。これらをまとめた規格としてはIEC規格や日本産業規格(JIS)等があるが、NITEでは蓄電池システムの規格作りにも参画してきた。蓄電池システムの安全性規格に関する取り組みの概要を図5に示す。
2020年には、NITEが原案を策定したIEC 62933-5-2(系統に接続される化学蓄電池システムの安全規格)が発行された。この規格には電池単体ではなくシステムとしての安全要求事項が規定されている。また、この規格を日本国内対応規格としたJIS C 4441(電気エネルギー貯蔵システム‐電力システムに接続される電気エネルギー貯蔵システムの安全要求事項‐電気化学的システム)が2021年3月に発行された。
2023年にも、NITEが原案を策定したIEC 62933-5-3(系統に接続される化学蓄電池システムの計画外変更に関する安全規格)が発行された。この規格は、蓄電池システムの設置場所を変更したり、自動車等に使用されていた中古の蓄電池を定置用蓄電池システムで再利用したりする場合等の、再設計/設置・試運転/運用・保守等の各段階における要求事項を規定している。また、この規格を日本国内対応規格としたJIS C 4442(電気エネルギー貯蔵システム -電力システムに接続される電気エネルギー貯蔵システムの安全要求事項- 電気化学的システムの計画外変更の実施)が2025年10月に発行された。
(3)最近の取り組み
リチウムイオン電池の事故は大規模な火災に発展しやすことから、産業用リチウムイオン電池についても安全規格や認証が必要である。NITEは、大阪事業所で世界最大規模の大型蓄電池システム試験施設(NLAB Large Chamber)を運営し、性能や信頼性、安全性に関する新たな試験方法・評価方法の開発なども行っており安全規格等へ反映している。また、カーボンニュートラルの実現に向けて、自動車の電動化が急務である中、液系リチウムイオン電池より安全性が高いとされる全固体リチウムイオン電池の開発が加速している。NITEは、硫化物系全固体電池を評価できる試験施設(NLAB MIDDLE Chamber)を国内で初めて建設し、2024年度から試験を開始した。今後の全固体電池に関する標準化活動等においても、関係機関との連携の下で有効活用を促していく予定である。
4.おわりに
蓄電池システムは充放電の高速性と高精度の制御性を有することから、再生可能エネルギーの大量導入で課題となる電力系統の周波数変動の抑制や余剰電力の吸収等の調整力として期待され、蓄電所等の国の補助金事業も大がかりとなっている。これを受けて海外の安いリチウムイオン電池が戦略的な価格設定で多くの蓄電池活用事業者に採用されている。このような中で蓄電池に本来求められるべき長年月での使用に耐える安全性が懸念されており、マルチユースも含めた蓄電池の劣化特性や安全性確保が求められている。
なお、現状、蓄電池以上に広範囲かつ大量に存在するヒートポンプや蓄熱等のエネルギーリソースについては蓄電池より応答性や制御精度で制約はあるものの、本来の熱需要シフトによる活用に加え、昼間の再エネリッチな時間帯での蓄熱運転による省エネ・省コストに寄与するフレキシブルな活用も可能であり、アグリゲーター等が具体的な活用を検討中である。