knowledgeable opinion
カーボンニュートラル

No.18 自治体と連携したVPP構築・DR推進の取り組み

東京電力エナジーパートナー株式会社 カスタマーテクノロジーイノベーション部 DRイノベーショングループ
中村 亮太 氏
2021年3月横浜国立大学都市科学部環境リスク共生学科卒業、同年4月東京電力エナジーパートナー株式会社入社。特別高圧・高圧領域の法人営業を経て、現部署にてDRやVPPに関するリソース開発や実証事業に携わる。

1.再生可能エネルギー普及拡大のもとで注目を増すDR(デマンドレスポンス)

 電力の安定供給には、電気を「つくる量(供給)」と「消費する量(需要)」が常に同時同量であることが不可欠です。この供給と需要のバランス(=電力需給バランス)が崩れると、最終的には大規模停電(ブラックアウト)が発生する可能性があります。これまで日本の電力需給バランス維持においては、電源構成比率の大半を占める火力発電や揚水発電が調整力の機能を有することで、電力の安定供給において重要な役割を担ってきました。
 しかし近年、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みが世界規模で加速し、世界各国が掲げるカーボンニュートラル目標を実現するため、再生可能エネルギーの活用が期待された結果、太陽光発電の急速な普及や、火力発電の減少志向を招きました。太陽光発電はCO2を排出しない再生可能エネルギー電源の代表格である一方、発電量が日射量に左右されることから、電源構成における比率が高まると、従来のように供給側だけで電力需給バランスを保つことが困難になる可能性があります。資源エネルギー庁が公表している第七次エネルギー基本計画(図1)によると、2040年度の電源構成見通しにおける太陽光発電の比率は23~29%程度としており、この値は2023年度の9.8%と比較すると、大幅に増加していることがわかります。一方で、火力発電の比率は、2023年度の68.6%と比較すると、3~4割程度に大きく減少しております。電源構成における太陽光発電比率の増加と火力発電比率の低減は、供給側が持つ電力需給バランス調整能力を低下させることを意味します。

 このような状況下で注目されているのが、電力消費者が需給バランスの状況に応じて電力需要パターンを柔軟に変化させるDRです。前述のとおり、これまで日本の電力需給バランス調整機能は火力発電や揚水発電が担ってきましたが、火力発電から再生可能エネルギーを利用した発電への置き換えが進むにつれ、さらに追加的な調整力が必要になります。よってDRは、追加的な調整力を生み出すという点で、電力の将来的な安定供給のための重要な仕組みであり、再生可能エネルギーの導入拡大に伴って、その役割はますます大きくなっています。DRの種類と代表的な用途の整理を表1に示します。
 こうした背景から、国策としてもDRは推進されており、省エネ法に基づく定期報告では、2023年度分報告より電力の需給状況に応じた「上げDR(再生可能エネルギー余剰時等に電力需要を増加させる)」・「下げDR(電力需給ひっ迫時に電力需要を抑制させる)」の実績報告を行うことが求められています。また、電気需要最適化評価原単位における評価項目では、再生可能エネルギー出力抑制時のMJ/kWh係数を低くし、需給逼迫時は逆に係数を高く設定することにより、電力消費者がDRに取り組むインセンティブとしております。

 DRの普及拡大により、電力需給バランスを供給側だけでなく需要側でも調整することが可能となり、再生可能エネルギーの有効活用と電力の安定供給を両立させることができます。一方で、DRの普及にあたっては、対象となる設備が理論上DR対応可能であったとしても、DR対応によって生み出される効果(市場等から得られる報酬等)が運用に伴って生じるコストを上回る必要があり(=経済合理性)、現状課題となっているポイントでもあります。

2.自治体とのDR推進・VPP形成にむけた活動

2・1.VPP(Virtual Power Plant・仮想発電所)とは

 VPPとは、需要側のエネルギーリソース(蓄電池、EV、自家発電設備など)についてIoT技術を活用して遠隔で統合制御し、あたかも一つの発電所のように機能させる仕組みを指します。
 VPPは、電源構成における再生可能エネルギー比率が増加し、電力需給バランスの維持が難しくなる中で、再生可能エネルギーの不安定性を吸収し、電力の安定供給を可能にするポテンシャルを持っています。また、複雑性を増している電力需給バランスの維持に対し、AI技術も活用することにより、高度な最適化を実現できます。
このように、VPPの活用は将来の電力システムにおいて、重要な選択肢の一つとして期待されております。

2・2.神奈川県におけるVPPの取り組み

 神奈川県は、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、太陽光発電のさらなる普及を目指しております。しかし、前述の通り、再生可能エネルギーの導入拡大にあたっては電力需要を柔軟に調整できる仕組みが不可欠となります。こうした背景から、神奈川県は2022年度より「神奈川VPP形成促進事業」を開始し、地域VPPの構築に取り組んでいます。
 東京電力エナジーパートナー株式会社(東電EP)は、将来にわたる電力の安定供給および電力システムの最適化に向けたVPPの知見獲得および技術推進を図るため、神奈川県と協定を締結し、2026年度までの5年間にわたり、VPP形成に向けた実証や取り組みを進めています。具体的には、DR・VPPに参加するお客さまの募集や、DRが発動された際の電力需要場所における受電状況やベースライン、DR目標値を見える化できる機器の導入を推進しております。この取り組みにより、神奈川県内の調整力の拡大およびDR実効性の向上を進めており、2024年度末には約90件のお客さまにご参加いただき、約70MWのVPPリソースを運用しております。

 <東電EPの具体的な役割(実施事項)>
  調整力の確保:VPPに参加するお客さまの募集
  設備導入  :VPPに必要な計測・制御機器及びIoT関連機器の設置
  VPP運用 :電力の需給バランスに合わせて調整力を制御

2・3.神奈川県内での再生可能エネルギー余剰時における上げDRリソース運用の実証

 電力の供給力不足となりやすい夏季・冬季の夕方における「下げDR」については、調整力公募における電源Ⅰ´(2018年度~2023年度)や容量市場における発動指令電源(2024年度~)といった制度により、これまでも比較的広く認知され、活用されてきました。一方で、「上げDR」については、再生可能エネルギーの出力制御が増えつつあるものの市場化がされておらず、実施例が全国的にも少ないのが現状です。
 神奈川県が位置する東京電力パワーグリッド株式会社(東電PG)の供給エリア(東京エリア)に着目すると、再生可能エネルギー(特に太陽光発電)の需要に対する比率が他エリアと比較すると相対的に低く、結果として、他エリアではすでに再生可能エネルギーの出力制御が実施されている中で、再生可能エネルギーの出力制御を免れている状況にあります。しかし、東電PGの見解によれば、2025年時点で低需要期に高日射が想定される場合、出力制御が必要となる可能性が示されており、さらに長期的な視点においては、再生可能エネルギー設備容量の増加に伴い、2040年断面で再生可能エネルギー出力制御率が約2%に達すると予測されています。
 こうした将来顕在化するであろう課題を見据え、東電EPは神奈川VPPに加入している一部のお客さまを対象に、2024年度から2025年度にかけて「上げDR」を試験運用してきました。この実証の目的は、太陽光発電設備の出力増加を上げDR運用によって吸収し、再生可能エネルギーの有効活用と電力系統の安定化を両立させることです。DRリソースは、自家用発電機の他、蓄熱設備や貯水槽、冷凍冷蔵倉庫といった多様なリソースを対象として実証を行いました。

(1)実証の対象としたDRリソース

(2)実証結果
 上げDR発動日における神奈川県内2地点の太陽光発電所の発電量予測をもとに、対象需要場所の合計受電電力量について、各月の平均値と上げDR発動日当日の実績値を比較し、太陽光発電量の増加時間における系統受電量の増加(上げDR活用による太陽光発電の出力変動吸収効果)を確認しました。図2に示す一例では、太陽光発電の出力が通常より余剰傾向にある時間帯に、電力需要を増加させることに成功しており、上げDRによる需給調整の有効性が確認できます(月平均と上げDR実施当日との比較)。
 また、発電事業者と電力需要家の間で電力量(kWh)を取引する卸電力市場において、市場価格は市場の限界費用をもとに決まるのが原則ですが、冷暖房需要の小さい春季や秋季に高日射が想定される場合、市場価格を引き下げる入札が増加し、卸電力市場が下落する傾向が見られます。このタイミングで電力需要を増加させることにより、常時調達している電源よりも安価な電源を活用することができ、お客さまへの報酬還元の原資となる運用効果を創出することが可能です。

(3)上げDRに参加することによるお客さまのメリット
 今回の上げDR実証では、お客さまの上げDR実績(調整電力量:kWh)に応じて、再エネ価値取引市場から調達した「トラッキング付FIT非化石証書」を提供しました。提供する証書は、「発電所所在地:神奈川県」「発電設備区分:太陽光」といった属性情報が付与されたものを活用しました。これにより、お客さまは上げDRで調整した分の電力について、神奈川県内の太陽光発電設備由来の環境価値を活用することができます。また、神奈川県としても、県内で生み出された環境価値の「地産地消」に寄与する仕組みとなっています。

 上げDRに参加するメリットは、DR調整量に応じて得られる報酬だけではありません。近年、カーボンニュートラルの潮流が加速する中、企業はCSRや投資家対策として脱炭素に向けた取り組みを自ら推進していくことが求められる一方で、省エネルギーや再生可能エネルギー導入を進めるには、新規設備の導入や検討体制の構築など、初期投資や運用コストが生じます。上げDRは、お客さまが既に所有している設備を活用し、自治体やアグリゲーター(東電EP)が主導するDR・VPPに即した運用を行うことで、追加的なコストを発生させずにカーボンニュートラルへの取り組みを進めることが可能となります。
 この仕組みにより、お客さまは地域に貢献しながら、コスト効率の良いカーボンニュートラルへの取り組みを進めていくことができます。

 実際に実証に参加されたお客さまからは、以下のようなお声をいただきました。

(4)上げDRの課題
 一方で、上げDRをスキームとして成立させるには、いくつかの課題があります。その一つが経済性です。CSRやカーボンニュートラルの推進に寄与するとしても、上げDR対応に要するコストが報酬として十分に還元されなければ、多くのお客さまは上げDRに参加しません。このため、お客さまが上げDRを実施する際の対応コストを正確に把握し、それを適切に還元する仕組みを構築することが、お客さまとの合意形成および持続可能な事業実施の鍵となります。

(5)上げDRにおける最適なインセンティブの検討
 お客さまの上げDR対応コストを検証するにあたり、今回は図5に示すステップで検証を行いました。

STEP1 ターゲットとなるリソースの選定
 上げDR対応に必要なコストを把握するにあたり、検証対象とするリソースを自家用発電機としました。自家用発電機は、気象条件や操業状況といった外的要因の影響を受けにくく、DR実施の確実性が高い点で、DRリソースとして優れているためです。また、東電PGの託送供給約款にて定められている自家発補給電力の特別措置※を活用することにより、再生可能エネルギー出力制御時や出力制御が見込まれる時間帯にDRリソース活用の最大化を図ることができます。

※(補足)自家発補給電力の特別措置とは
 自家発補給電力の特別措置は、再生可能エネルギー出力制御時や出力制御が見込まれる時間帯に自家発電を止めるなどして自家発補給電力を使用する場合に、自家発補給電力を使用していないものとみなし、自家発補給電力に係る託送料金の基本料金を半額のままとする特別措置です。2025年時点における特別措置の対象時間は以下のとおりです。
 ・軽負荷期(4/1から5/31の期間)における毎日午前8時から午後4時まで
 ・軽負荷期以外の期間における土曜日、日曜日、「国民の祝日に関する法律」に規定する休日、1月2日、1月3日、12月30日および12月31日の午前8時から午後4時まで
 ・再生可能エネルギー発電設備出力抑制対象時間

STEP2 上げDR対応に必要なコストのシミュレーション
 コストシミュレーションは、上げDR対応によるコスト削減要素とコスト増加要素をそれぞれ算出し、燃料単価別に損益分岐点となるDR報酬単価を求めることで実施しました。
 表3はガスコージェネレーションシステム(CGS)を用いた上げDR対応に係るコスト削減要素とコスト増加要素をまとめたものです。CGSは発電時に発生する熱を有効利用し、冷暖房や給湯に活用していることから、上げDR時間帯にCGSを停止すると、CGS停止に伴うガス使用量は減る一方、必要な熱を代替熱源で賄う必要があるため、ボイラ等のガス使用量は増加します。実際には、ガス以外の燃料やDHC(地域熱供給)からの熱供給で賄うパターンも存在しますが、今回の検証では都市ガスを代替熱源の燃料として検証しました。

 検証の結果、一定の条件下では、3~7円/kWh程度のインセンティブを付与することで、上げDRの対応コストを回収可能であることが示されました。一方で、上げDRを経済DRとして運用する場合、インセンティブ単価を高くするほど、DRを運用するハードルが上がり、結果的にDRリソースの活用機会を縮小させてしまうことにつながります。そのため、お客さまが必要とする対応コストを検証すると同時に、算出された報酬単価水準でDR発動が可能かを検証する必要があります。

STEP3 必要な報酬水準における調整頻度のシミュレーション
 前項のシミュレーションにより、調整した電力量あたり3~7円/kWh程度のインセンティブをお客さまへ付与する場合、どの程度の発動回数が担保できるのかをシミュレーションしました。その結果を図6および図7に示します。

 検証の結果、東京エリアの直近のスポット市場価格水準の場合、週1~2回程度の上げDR運用が可能であることが確認できました。また、将来的な広域エリアブロック全体での再生可能エネルギー比率向上を見越し、東京エリアと同じ50ヘルツである東北電力ネットワークの供給エリア(東北エリア)を参照すると、2倍程度の発動回数が見込める結果となりました。

まとめ
 検証の結果、上げDRの普及拡大を進めるうえで必要なインセンティブ相場や運用面での活用可能性を確認することができました。一方で、今後は自家用発電機以外のDRリソースにおいても同様に、再生可能エネルギー電源が普及拡大した状況下における最適な設備運用を検証していく必要があります。
また、今回の検証で示された結果は、日本の現行制度において上げDRを運用することの限界を示しているものでもあります。将来にわたって再生可能エネルギーを普及拡大していくにあたっては、電力の安定供給を下支えする調整力保有者が、電力需給バランスの安定化を目的とした行動変容に対してメリットを十分に享受できるような補助金制度や税制優遇、市場構築といった制度設計が必要になります。さらに、DRリソースの調整力運用を担うアグリゲーターの立場としては、導入が議論されている同時市場や中長期取引市場といった将来的な制度設計を見据え、電源調達や各種市場に対する応札の最適化など、様々なDRリソース活用パターンを想定していくことが重要です。

3.おわりに

 2015年にパリ協定が合意され、途上国含めた世界全体で気候変動に取り組む姿勢が整う中、再生可能エネルギーは主要なカーボンニュートラルの取り組みとして普及拡大が進んでおります。一方、天候によって供給力が変動する電源特性を持つ太陽光発電や風力発電の電源比率向上と継続的な電力安定供給の両立に向けては、課題を多く抱えております。特に日本においては、急速に進む人口減少やデータセンター増加に伴う電力需要構造の変化、自然災害の頻発といった課題も含めて、長期的なエネルギーの供給・利用構造を設計していく必要があり、結果として、エネルギー利用者全体が、従来のようにエネルギーを使いたい時に使うのではなく、エネルギーを使うべき時に使う運用方法・設備体制に移行していくことが、地に足のついたカーボンニュートラルを推進するにあたり重要です。
 VPPやDRは、こうしたエネルギーの最適利用を実行するうえで必要不可欠な取り組みである一方、まだまだ認知が広がっていないのが現状です。前述した自治体主導のVPPの取り組みは、こうした取り組みの認知拡大につながる他、取り組みに対するお客さまの理解を得やすい点で有効だと感じております。また、VPP・DRが抱える経済性をはじめとした多くの課題に対し、運用を試験的に実施できるプラットフォームを構築することで、考えうる解決策を実際の運用を伴って検証することができ、持続可能な電力システムの構築につながります。
 神奈川VPPは自筆の翌年度に事業の最終年度を迎えます。しかし、今回の事業はあくまでも“形成促進”事業であり、地域の再生可能エネルギー価値を最大化させるVPP利用にむけては道半ばにあります。お客さまの中には、エネルギー利用の最適化や地域貢献の観点から、神奈川VPPに強く関心を持っていただいている企業も多く、自治体とアグリゲーターが連携して、こうしたニーズと取り組みをマッチさせるプラットフォームを今後さらに進化させていく必要があります。
 最後に、東電EPは現在、近江商人の「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の“三方良し”に「未来よし」を含めた“四方良し”を目指した、新たな価値創造の実現を目指しております。少しかみ砕いていえば、「今」はよいというだけでなく、「未来」という時間軸を加味しても「よし」と評価できるか、という視点を経営・事業運営に加えようという試みであり、カーボンニュートラルの実現を見据えたVPP・DRの取り組みはまさに、“四方良し”に通ずるものだと思っています。課題は多いですが、“四方良し”を前提としつつ、「どうしたらできるか」のマインドを大切に、引き続きカーボンニュートラル実現にむけたVPP・DR活用を推進していく所存です。

【参考文献】
(1)https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/
(2)https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/factory/report/index.html
(3)https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/smart_power_grid_wg/pdf/003_01_00.pdf
(4)https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/smart_power_grid_wg/pdf/001_02_02.pdf