knowledgeable opinion カーボンニュートラル

令和6年4月3日

 再エネの普及・拡大に向けて必要となる需要サイドの新たな役割


ご所属・職位:日建設計総合研究所 執行役員
ご氏名   :河野 匡志
ご経歴   :
 1997年東京理科大学理工学研究科(建築学専攻)修了、1997年東京電力㈱入社。支店、本店研究所、本店営業部門の部署を経て、派遣出向業務(東京大学サスティナブル・キャンパス・プロジェクト)等にも従事し、2011年博士(工学)を取得、2014年1月より日建設計総合研究所。自治体や民間企業のビジョンやガイドラインの策定支援、省エネ・創エネに関する各種調査・分析・評価などカーボンニュートラルの分野に関連する業務に多数携わる。

 
 
 
 
 
 
 
 
 



 Contents

  ①はじめに
  ②徹底した省エネルギーを行った上で創エネルギーを組み合わせる
  ③エネルギーの供給形態の変化と各種電力市場の創設
  ④エネルギーの需要サイドにおける「整える技術」の必要性
  ⑤おわりに

①はじめに

 最近、カーボンニュートラルやESGなど、「環境を取り巻く状況」に関する変化のスピードが速くなっていること実感します。これは、耳にする機会の多くなった横文字(ISSB、SBT、ZEB/ZEH、ESG、GX、DX、SX、VPP、DR、PPA、FIT、FIP、CE、TNFD、NETsなど)をみても一目瞭然かもしれません。
 エネルギーのほとんどを輸入する我が国は、1971年のオイルショックを経て、限りある資源を最大限有効に活用すべく、省エネルギー(高効率化)や負荷平準化に取り組んできました。その後、エネルギーの自由化、震災・風水害などの自然災害を経て、省エネ・省コストに加えて、BCP性能のニーズも加わり、分散型電源をはじめとした自立機能、蓄熱や蓄電など蓄える機能(電気、水、食料など含む)の必要性を再認識しました。その後、2020年10月の「カーボンニュートラル宣言」を受けて、環境経営の重要性が高まり、市場からの電力調達や環境価値の調達、コーポレートPPAを始めとした再生可能エネルギー活用の多様化、環境認証取得などアセット価値の向上等々、配慮すべき事項や取り組むべき事項が急速に増えています。
 このような状況のなか、これまで培ってきた技術も活かしつつ、変動する再生可能エネルギーの導入拡大も含めて、どのように工夫して、課題解決していくか、今後の検討課題になっていると考えます。

②徹底した省エネルギーを行った上で創エネルギーを組み合わせる

 我が国がこれまで培ってきた省エネルギー技術は、機器の高効率化(ヒートポンプ技術の活用など)、設備の運用改善、行動変容など、いろいろなカテゴリに分類され、時代の流れとともに、技術革新や新たな知見によって継続的に付加され改良されています。カーボンニュートラルを進める上では、【図1】に示すように、先ず徹底した省エネルギー(現時点で取り得る技術の適用)を行った上で、創エネルギーを組み合わせることが重要なポイントと考えます。
 組み合わせる創エネルギーには、電気の再生可能エネルギーだけではなく、熱の再生可能エネルギー、未利用熱の活用も挙げられます。これらは、つくる場合もつかう場合も互いに変動しますので、蓄える技術(ヒートポンプ・蓄熱式空調システム、蓄電池、V2Xなど)の活用が欠かせないものとなります。さらにこれら電気や熱の活用先が、建物単体から街区・エリア、都市へと拡がるにつれて、自家消費から融通、系統連系や環境価値など、活用形態が変化し、VPPやDRを行うアグリゲータなど調整役も必要になります。



              【図1】省エネルギーと創エネルギーの活用イメージ

③エネルギーの供給形態の変化と各種電力市場の創設

 エネルギーの供給は、電気であれば、大型発電所(火力、水力、原子力など)から一方通行で供給されていますが、再生可能エネルギーなどの分散型電源の普及に伴って、供給サイドだけではなく、需要サイドにも導入が進んでおり、後述する電力市場の創設を含めて、双方向の供給形態へ変化しています。
 現状の需給状況を【図2】に例示します。図は、中間期における東京電力㈱管内の需給実績1)の経年比較になりますが、昼間には太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーの発電が増加しており、大型発電所(電圧や周波数を維持する需給調整機能を担う)の発電した電気は、揚水発電所の貯水用電源に活用されていることが分かります。またこの電気は、日没に近づくにつれて減少する再エネ発電量を補う電源として活用されるなど、再エネの普及前に比べて、電力の供給形態が大きく変化している様子がわかります。このような変化は、既に再エネの普及が進んでいる地域(九州等)では、中間期に再エネ電力の出力抑制を行っており、再エネの普及・拡大に向けた大きな課題となっています。
 こうした中、電力市場には、電気の調整力を商品として扱う「需給調整市場」や中長期の電力の安定供給を見据えた「容量市場」が創設されています。このように、電力量(kWh)を取引する市場(卸電力市場、ベースロード市場)、環境価値を取引する市場(非化石価値取引市場)、検討中の市場(同時市場)も含めて、【表1】に示す様々な取引市場が創設・検討されており、需要側のニーズに応じた電力調達や供給側のニーズに応じた電力取引などが可能となっています。





               【図2】中間期における東京電力㈱管内の需給実績
                  (上:2017/4/16、下:2023/4/16)


                       【表1】電力市場

④エネルギーの需要サイドにおける「整える技術」の必要性

 ③に示した状況から、これまで供給サイドで担ってきた需給調整機能は、今後、需要サイドにも必要な機能になると考えます。また調整力の規模についても、供給サイドでは、発電所など一つ一つが「大きな調整力」でしたが、需要サイドでは、「小さな調整力」の積み上げになるものと考えます。
 この積み上げの基本となる調整力は、②に示した蓄える技術(ヒートポンプ・蓄熱式空調システム、蓄電池、V2Xなど)の他に、行動変容など需要サイドならではの取り組み等も付加した「整える技術」となります。建物単体から街区・エリア、都市と積み上げる量を拡大することによって、「大きな調整力」を生むことができ、出力抑制をすることなく、再エネを普及拡大させることに貢献できると考えます。【図3】は、需要サイドにおける「整える技術」について検討した一つの事例2)ですが、街区単位で、取り組みのメニュー(上げDR、下げDRなど)を共有し、実践することにより、「大きな調整力」を創出できるポテンシャルがあることが分かりました。アグリゲータ、エリアマネジメント団体等が担い手になるには、関係するステークホルダーが多く様々な課題があるため、国や自治体の政策、インセンティブや助成制度など、取り組みを後押しできる材料が増えることに期待します。





            【図3】街区単位の試算による可視化イメージと出力結果イメージ

⑤おわりに

 電気と熱といった生活に欠かせないエネルギー源をCO2排出量の少ないエネルギーへ転換していく上で、ヒートポンプ技術、ヒートポンプ・蓄熱システムが従来から持つ「高効率化技術」、「蓄える技術」は、継続的な技術革新や使い方の工夫によって、今後も「整える技術」のベースとなると考えます。

出展

1)東京電力パワーグリッド㈱,エリア需給実績データ(2017年度、2023年度)を基に日建設計総合研究所作成
2)国土交通省都市局,まちづくりのデジタルトランスフォーメーションの推進に向けた3D都市モデルを活用した民間サービス創出型ユースケース開発業務(令和4年度)【環境・エネルギー:地域エネルギーマネジメントの導入ポテンシャルの評価・可視化手法の開発】より引用