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カーボンニュートラル

No.19 住宅はエネルギーを「消費する場」から「支える場」へ ――2050年カーボンニュートラルに向けた住宅の省エネ・脱炭素の現在地

大和ハウス工業株式会社 経営管理本部 渉外部 東京渉外室・主任技術者
渡辺 真志 氏
2001年京都大学大学院工学研究科(生活空間学専攻)修了、同年大和ハウス工業入社。住宅の研究開発・商品開発、技術渉外等に携わる。経済産業省におけるZEH・ZEH-M委員会の委員など、複数の委員会に参画。

1.はじめに――省エネ性能が住宅の必須性能となった時代に

 2025年の省エネ基準適合義務化を転機として、住宅の省エネ化の現在地を「新築の高性能化」「既存ストック改修」「建築物LCA」の三つの観点から整理する。

 私は2001年に大和ハウス工業に入社し、研究開発、商品開発、技術渉外と所属部門は変わりながらも、一貫して住宅の断熱・省エネルギーに関わってきた。振り返れば2001年頃は、次世代省エネルギー基準の整備や住宅性能表示制度の開始など、住宅の省エネ性能を社会的に評価する仕組みが整い始めた時期でもあった。
 当時、省エネ性能は重要でありながら、どちらかといえば「付加価値」として捉えられることが多く、住宅取得者にとっての「必須性能」という位置づけには至っていなかった。
 それから四半世紀が経過し、2025年4月からは原則としてすべての新築住宅・建築物に省エネ基準への適合が求められることとなった。省エネ性能は、もはや一部の高性能住宅だけが備える特別な価値ではなく、住宅が当然備えるべき基本性能の一つになったといえる。
 そしてこの制度転換は、住宅取得者にとっても「家選びの基準」が変わることを意味する。どの性能を重視し、どこまで求めるか――その判断が、暮らしと社会の両方に少しずつ影響していく。
 本稿では、省エネは「我慢」ではなく、快適さや健康とも両立しうる「暮らしの質」の話として捉えたい。

図1 2025年4月施行に係る国土交通省からのお知らせチラシ

 次章以降では、日本政府の目標でもある「2050年カーボンニュートラル」に向けた住宅の省エネ化の現在地を、三つの観点から整理したい。
 第一に、新築住宅における断熱・省エネ性能の高性能化について。
 第二に、既存住宅ストックの省エネ改修について。
 第三に、建設から解体までを含めた建築物LCAについて。
 これら三つの観点が示す課題は独立したものではなく、住宅分野の省エネ・脱炭素を実現するうえで互いに深く関わり合うものと捉えるべきである。

2.新築住宅に求められる断熱・省エネ性能の高性能化

 新築住宅は、断熱・省エネ設備・再エネ設備をセットで高め、設計と住まい方まで含めて性能を活かす段階に入っている。

 住宅の省エネ性能が必須性能となった現在、新築住宅に求められる水準は着実に高まっている。2025年の省エネ基準適合義務化は最低基準の底上げであり、2030年度までには新築住宅でZEH水準の省エネ性能の確保が目標とされている。
 さらに、ZEH水準を上回る性能を有する「GX志向型住宅」への補助も始まっている。2027年度からはGX ZEHという新しいZEHに基づく評価・認証も始まる予定であり、断熱・省エネ設備・再エネ設備に加えて、エネルギーマネジメントまで含めて考える段階に入りつつある。

 省エネ住宅は、ZEHの考え方に沿って「断熱性能」「省エネ設備」「再エネ設備」の三つで整理すると分かりやすい。
 まず土台となるのが「断熱性能」である。外皮を通じた熱の出入りを抑え、外気の影響を受けにくい室内環境をつくることで、少ない冷暖房エネルギーで室温を保ちやすくなる。

図2 ZEHの考え方

 ただし、断熱性能の向上は冷暖房費の削減だけが目的ではない。冬季の室温低下や部屋間の温度差は居住者の健康に影響し得る。また夏季においては、熱中症対策としても断熱性能や日射遮蔽の重要性が増している。特に高齢者にとって、屋内の暑熱環境は大きなリスクとなり得る。
 「暑いけれど我慢する」のではなく、必要な冷房を適切に使いながら、過度なエネルギー消費をせずとも快適な室内環境を維持することが重要である。

 一方で、断熱等性能等級6・7のような高断熱住宅は、断熱材を厚くすれば成立するわけではない。断熱性能を高めるほど、日射取得と日射遮蔽、空調計画、湿気対策、設備容量などを含めた設計の総合力が問われ、住み心地や省エネ効果を左右する。
 また、高性能住宅ほど住まい方の影響も大きい。窓の開閉や日射遮蔽、空調の運転、季節ごとの暮らし方など、住まい手が住宅の特性を理解し、適切に使うことでその性能が発揮される。

 次に、高効率な空調・給湯設備などの「省エネ設備」である。住宅の省エネは「断熱性能」と「省エネ設備」の掛け算で決まるため、断熱が不十分なまま高効率設備だけを導入しても、期待した効果が十分に得られないことがある。断熱性能を高めたうえで、高効率な空調・給湯設備を組み合わせることが重要である。
 とりわけヒートポンプ技術は、住宅の省エネ化の中核を担う技術の一つである。空気中などの熱をくみ上げて利用するため、投入した電力以上の熱を冷暖房や給湯に利用でき、効率が非常に高い。エアコンやエコキュートは既に多くの住宅で使われており、今後も重要な役割を果たすだろう。

 断熱性能、省エネ設備に加えて、太陽光発電などの再エネ設備を導入し、住宅でエネルギーを生み出せば、居住段階でのエネルギー収支を大きく改善できる。これがZEHの基本的な考え方である。
 さらに、蓄電池で電気を蓄えたり、HEMSでエネルギーを賢く使ったりすることで、住宅の省エネは拡大する。デマンドレスポンス(DR)のように、電力需要側の使い方を工夫してピークを抑えたり時間帯をずらしたりすることで、電力システムの安定性を高め、再生可能エネルギーの活用を進めやすくする考え方も広がりつつある。
 住宅は、単にエネルギーを消費する場から、エネルギーを生み出し、蓄え、賢く使う場へと変わりつつある。

 もっとも、住宅の高性能化には初期コストの上昇が伴う。資材価格や設備価格が上昇し、住宅取得環境が厳しさを増す中で、理想的な性能水準を掲げるだけでは普及は進まない。
 私たちハウスメーカーには、イニシャルコストとランニングコスト、快適性やレジリエンス性などを総合的に考え、住宅購入者が納得して選択できる現実的なパッケージを提案することが求められる。また、国や地方自治体には、補助、税制優遇、金利優遇など、住まい手が無理なく選択できる環境づくりを期待したい。

図3 住宅の断熱性能および一次エネルギー消費性能の等級と省エネ基準・ZEH水準の関係(筆者作成)

3.既存住宅ストックをどう省エネ化し、住み継ぐか

 2050年カーボンニュートラルに向けては、既存住宅ストックの省エネ化を現実的に進めることが不可欠であり、部分断熱改修と評価・流通の仕組みづくりが鍵となる。

 住宅の省エネは新築住宅の高性能化が注目されがちだが、2050年カーボンニュートラルを見据えると、既存住宅ストックの省エネ化は避けて通れない。人々の暮らしの大部分は、すでに建っている住宅の中で営まれているからである。
 人口減少や高齢化、世帯構成の変化、空き家の増加などにより、住宅市場の前提も変わりつつある。住宅の省エネ化は、新築の高性能化と同時に、膨大な既存ストックをどう省エネ化し、長く使い続けるかという課題でもある。

 既存住宅の省エネ改修は、単に光熱費を下げるためだけの取り組みではない。冬の寒さや夏の暑さをやわらげ、部屋間の温度差を小さくし、結露やカビのリスクを下げるなど、住み心地や健康面の改善にもつながる。特に高齢者や子育て世帯にとって、住宅内の温熱環境は暮らしの安全・安心に直結する。省エネ改修は、暮らしの質を高める方法でもある。

 省エネ改修では断熱性能の向上が重要になるが、既存住宅は一棟ごとに条件が異なる。構造や納まり、劣化状況、過去の改修履歴などを踏まえ、断熱・気密のラインや結露リスク、既存部位との取り合いを丁寧に検討する必要がある。さらに、全面改修は費用・工期の負担が大きく、居住しながらの工事も難しい。
 そこで重要になるのが、部分断熱改修という考え方である。住宅全体を一気に高断熱化するのではなく、効果が出やすいところから優先的に手を入れる。例えば、熱の出入りが大きい窓から改善する、あるいは滞在時間の長いLDKや寝室から改善していく、といった進め方だ。
 もちろん全体の断熱性能を高めることが理想だが、既存改修では、100点満点を一度に目指すだけでなく、確実に効果のある10点、20点を積み上げる発想が有効である。部分的な改善であっても、日常的に長く過ごす空間の温熱環境が改善すれば、暮らしの質は大きく向上し得る。多くの人に選ばれる断熱改修にするためにも、こうした現実的なステップが重要である。

 部分断熱改修を普及させるには、効果を分かりやすく示し、評価する仕組みが欠かせない。住宅全体の性能評価だけでは、部分的な改善の効果が見えにくい場合がある。どの部位を改修すれば、どの程度の改善が期待できるのかを示し、性能水準に応じた支援やインセンティブを整えることが普及の後押しになる。
 また、既存住宅ストックの活用は、住宅の価値をどう評価するかとも関係する。適切に維持管理され、断熱性や耐震性、設備性能が向上した住宅が市場で正当に評価されるようになれば、住宅は単に消費されるものではなく、次の世代に住み継がれる資産となる。

 そのとき問われるのは、個々の住宅性能だけではない。立地の利便性、災害リスク、コミュニティ、周辺環境の魅力も含めて、住宅の価値は形成される。既存住宅の省エネ改修は、一棟の住宅を改善する取り組みであると同時に、良質な住宅ストックを社会全体で形成し、街の価値を高めていく取り組みでもある。

図4 「部分断熱改修の進め方と効果(事例集)」より抜粋

4.建築物LCAが拓く、ライフサイクル全体での脱炭素

 居住時の省エネに加え、建材製造から解体までのライフサイクル全体でCO₂排出量を捉える「建築物LCA」が、次のスタンダードになろうとしている。

 住宅の省エネ化は、これまで主に「住んでいる間に使うエネルギーを減らす」ことが中心であった。断熱性能を高め、高効率設備を導入し、太陽光発電を設置することで居住時のエネルギー消費を減らす――この取り組みは今後も重要であり、住宅の省エネ化の基本であり続ける。
 しかし、2050年カーボンニュートラルの達成においては、それだけでは十分とは言えない。建材の製造、施工、居住、維持管理や改修、解体・再資源化まで、住宅の一生を通じたCO₂排出量を捉え、削減につなげる視点が必要になってきた。これが建築物LCA(ライフサイクルアセスメント)の考え方である。

図5 建築物のライフサイクルのイメージ

 こうした流れを象徴する動きとして、2026年3月に建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律)の改正法案が閣議決定され、国会で審議が進められている。改正法案では、従来の省エネの取り組みに加え、ライフサイクル全体での脱炭素化を後押しする「新たな軸」が制度として位置づけられ、法律名にも「脱炭素化の促進」が加わる予定である。

図6 住宅の省エネ・脱炭素に関する政策ロードマップ(筆者作成)

 ここで、ZEHと建築物LCAの違いを整理しておきたい。ZEHは主に居住時のエネルギー収支に着目し、断熱性能と設備効率を高め、再生可能エネルギーを導入することで、年間の一次エネルギー消費量の収支をおおむねゼロに近づける考え方である。
 一方、建築物LCAは、建材製造、施工、居住、改修、解体までを含めた「住宅の一生」のCO₂排出量を捉え、ライフサイクル全体での脱炭素化を図るための考え方である。つまり、ZEHが「住んでいる間」を中心に評価するのに対し、建築物LCAは「建てる前から解体まで」を対象にする。

 建築物LCAの議論は、ハウスメーカーだけでは完結しない。建材メーカーは製造段階の排出量を把握し、低炭素な製品を供給する必要がある。設備・家電メーカーも、省エネ性能に加えて、製造から更新・廃棄までを含めた環境負荷を意識することになる。
 住宅のライフサイクル全体を見れば、設計者、施工者、建材メーカー、設備メーカー、電力会社、そして住まい手まで、多くの主体が関係者となる。建築物LCAは、住宅分野の脱炭素を「関係者全体の取り組み」へ広げる枠組みとも言える。

 一方で、住宅分野で建築物LCAを進めるには課題も多い。住宅は一棟あたりの規模は小さいが件数が多く、供給形態も多様である。過度に精緻な算定を一律に求めれば、設計者と審査者の双方に大きな負担が生じ、最終的にはコストとして住まい手に転嫁される懸念もある。
 さらに重要なのは、「精緻に算定すること」自体が目的ではないという点である。算定結果が、設計の改善や低炭素な建材・設備の選択、施工方法の工夫、長寿命化や改修の促進につながらなければ、実質的な削減効果は限定的になってしまう。建築物LCAは、関係者が削減余地に気づき、具体的な行動を選択するための道具であるべきだ。

 したがって、住宅分野における建築物LCAは、精度と実務負担、そして削減効果とのバランスが重要になる。簡易で比較可能な算定方法、住宅に合った建材・設備データの整備、段階的な導入など、持続可能で使いやすい制度設計が不可欠である。そのためには、設計者が過度な入力作業に追われないよう、建材・設備データの整備と、算定ルールの統一・簡素化をセットで進めることが欠かせない。
 建築物LCAは、住宅の脱炭素を進める有効な手段である。制度そのものを目的とするのではなく、見える化の成果を「より良い設計と暮らしの選択」につなげていくことが、建築物LCAの本来の意義である。なお、制度化に向けた検討では、2028年度を目途にLCAの実施を促す制度開始を目指す方向性が示されている。

図7 2028年度開始予定の建築物LCA制度のイメージ

5.おわりに――住宅はエネルギーを消費する場から、支える場へ

 新築高性能化・既存断熱改修・建築物LCAを統合して捉えると、住宅は暮らしの質を高めながら、脱炭素とエネルギーシステムにも貢献し得る基盤だと見えてくる。

 住宅の省エネ・脱炭素は、新築住宅の高性能化だけでは完結しない。省エネ性能が住宅の必須性能となった今、既存住宅ストックの現実的な性能向上と、建設から解体までを含むライフサイクル全体でのCO₂削減が、次に問われる論点である。
 そして、その取り組みは地球環境のためだけでなく、住まい手の快適性・健康性・経済性・レジリエンスを高めるものでなければならない。

 住宅分野には、高断熱化、高効率設備、太陽光発電、蓄電池、HEMS、そして今後本格化する建築物LCAなど、多くの技術と手段がそろいつつある。しかし、技術的に可能であるものを社会に広く普及させるためには、さらに多くの課題解決が必要であり、時間もかかる。
 コスト、施工体制、制度の分かりやすさ、住まい手の理解、担い手の確保、データ整備などを含めて、実装可能な形にしていくことが重要である。
 また、住宅の価値は、仕様としての性能と、これを活かす使い方の両方で決まる。両者をつなぐ共通指標・共通言語の整備が、普及の前提となる。

 住宅は、これまで地球環境の観点からはCO₂を排出する存在、電力システムの観点からは電力を消費する存在として捉えられがちだった。しかし今後は、太陽光発電でエネルギーを生み出し、蓄電池やHEMS等を賢く使うことで、電力のピーク抑制や需給調整にも貢献し得る存在となる。
 住宅を「消費する場」から「支える場」へ転換していくためには、住まい手の快適性を損なわずに、エネルギーの使い方を上手に設計・運用する視点が欠かせない。
 そのためには、住宅業界だけでなく、住設メーカー、建材メーカー、電力会社、行政、そして住まい手を含む多様な関係者が、それぞれの役割を持ち寄り、連携していく必要がある。住宅は人々の暮らしの基盤であると同時に、これからのエネルギーシステムの一部でもある。

 2001年に住宅の省エネに関わり始めた頃、住宅にとって省エネ性能はまだ付加価値の一つであった。それが現在は必須性能となり、省エネ性能の位置づけは社会を支える役割へと広がりつつある。この変化の中で、住宅が快適で健康な暮らしを支え、脱炭素にも貢献する基盤となるよう、住宅の省エネに携わる技術者の一人として、その一助となるような努力を続けていきたい。

図の出典
図1:国土交通省「2025年4月施行に係る国土交通省からのお知らせチラシ」(PDF)
https://www.mlit.go.jp/common/001978718.pdf (2026年6月4日閲覧)
図2:資源エネルギー庁ホームページ「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に関する情報公開について - 省エネ住宅」より
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/housing/index03.html (2026年6月4日閲覧)
図4:国土交通省「部分断熱改修の進め方と効果(事例集)」より
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001751754.pdf (2026年6月4日閲覧)
図5:国土交通省 第49回建築分科会「資料2-3_今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について(第四次報告)参考資料」より抜粋
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001977834.pdf (2026年6月4日閲覧)
図7:出典:国土交通省 第49回建築分科会「資料2-3_今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について(第四次報告)参考資料」より[h3.1]
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001977834.pdf (2026年6月4日閲覧)