コロナ禍における換気風量増加への対応

中央熱源方式の蓄熱槽を所有されている皆さま、採用をご検討されている皆さまへ

はじめに

 皆さまにおかれましては、コロナ禍により空調運用に関してご苦労をされていることと存じます。
昨今の新型コロナウィルス対策として換気量の増加が推奨されておりますが、換気量を増加させた場合、外気温が高い真夏や外気温が低い真冬等は、空調機(又は外調機)の外気熱負荷が増加し、室内が適正な温湿度に保てないことが懸念されます。
 蓄熱システムであれば、運用によって従来よりも多めに蓄熱したり、空調機(又は外調機)に多めに冷温水熱量を送る等、外気負荷の増加に対処可能な場合がございますので、柔軟な運用の行い易い中央空調方式の蓄熱システムにおける対応例をご紹介いたします。
 本内容が皆さまの空調運用に少しでもお役に立てば幸いです。

1.推奨されている換気量について

 建築物衛生法では室内環境基準として、二酸化炭素濃度:1000ppm以下、 温度:17~28℃、相対湿度:40~70%が定められており、一般的な事務所では一人あたり30㎥/hの換気が推奨されています。
 しかし、上記の基準が新型コロナウィルス感染防止の観点からも適正かどうかはまだ判明しておらず、現状では、
適正温湿度が維持できる範囲で,できるだけ換気量を増やすことが望ましい(※1)とされています。


※1:空気調和・衛生工学会ホームページ「商業施設、事務所に関係する皆様へ」参照

2.機械換気における換気量の増加方法

 機械換気で換気している場合、換気設備の運用方法を変更することで換気量の増加が可能な場合があります。
エアハンドリングユニット((AHU)で換気を行っている場合の換気風量増加方法例を以下に示します。
・エアバランスに注意して外気ダンパ、排気ダンパの開度を上げ、風量がインバータ制御の場合は給気ファン、
 排気ファンの電流値・INVを上げる (あるいは、プーリーを介してモータで駆動しているファンに対しては
 モータ側のプーリー径を大きいものに交換する)。
・外気量自動制御等を外して、外気ダンパを開固定する。
・外気系統のフィルタ(AHU内)が汚れている場合は、清掃または更新をする。  など(※2)


※2:空気調和・衛生工学会ホームページ「新型コロナウイルス感染対策としての空調設備を中心とした設備の運用 
    について(改定二版)」参照 

 換気量の増加により、外気温が高い真夏や外気温が低い真冬等は、外気の熱処理が間に合わず室内の適切な 温湿度が 保てない場合があるため、蓄熱槽廻りの対策例について、以下にご紹介いたします。  ※ 冷暖房を同時に表現すると煩雑となるため、以下の対処策例は冷房の場合を示します。    また、温度・流量等は実際には常時変動しているため、ある時点での状態値を例示しています。

3.運用変更により空調負荷の増加に対処する方法例

3-1 二次側冷水流量を増加させる方法
 二次側空調機の冷温水コイル能力やファン能力および冷温水配管サイズ等は機器選定上の余裕等、実際の運転において多少の余裕を有していることが多く、そのような場合には、流量調整用バルブ開度や冷温水二次ポンプのインバータ値を調整して、二次側空調機の冷温水流量を初期設定値より増加させることで、真夏や真冬等のピーク熱負荷時に外気量を増やすことによる熱負荷の増加に対処できる場合があります。なお、蓄熱システムの場合、蓄熱槽を介しての送水では、熱源機の流量を変化させることなく二次側冷水流量を大きくすることが可能です。
※注意点
  バルブ開度やインバータ値を調整する際は、機器・配管等の振動や騒音に留意しながら、少しづつ流量を上げるよ
  うにしてください。また、流量を調整する前に、熱源機の運転と蓄熱槽への蓄熱により、1日の熱負荷が処理でき
  ることを確認してください。なお、当初設定の流量で処理可能な時期になりましたら、省エネのために当初のバル
  ブ開度やインバータ値に戻してください。


       
 3-2 二次側冷水温度差を拡大する方法 ◆二次側空調機への送水温度を下げる方法  熱源機能力および二次側空調機の処理能力に余裕がある場合、熱源機の冷水出口温度設定を下げることにより、 二次側空調機に低温の冷水を送水することで、換気量を増やすことにより増加する熱負荷を処理することが可能な 場合があります。例えば、二次側冷水の送水温度を7℃から6℃に下げて送水し、14℃で還水される場合は、更に 14%程度の熱負荷を処理することが可能となります。  また、蓄熱時間に余裕があり、蓄熱槽利用温度差も拡大 [例えばΔt=7deg(7℃→14℃)からΔt=8deg (6℃→14℃)]できる場合には、蓄熱量も増やすことができる ため、日積算負荷の増加にも対応することが可能です。  ※注意点   熱源機の出口温度設定を下げると、熱源機の効率が低下しエネルギー消費量は増加しますが、二次側利用温度   差の拡大により二次ポンプの搬送動力は低減できます。変更前の熱源機冷水出口温度設定で処理可能な時期に   なりましたら、熱源機でのエネルギー増加分と搬送動力の減少分を比較して、熱源機出口温度設定を戻す等、   ご対応ください。    また、二次側送水温度を下げると、室内環境によっては制気口等で結露を生じるおそれがありますので、   状況を確認しながら調整してください。

◆二次側空調機の冷水出口温度を緩和する方法

 二次側空調機の処理能力に余裕がある場合、二次側空調機の冷水出口温度設定を緩和して利用温度差を大きく とることにより、換気量を増やすことにより増加する熱負荷を処理することが可能な場合があります。 例えば、 二次側空調機に7℃で送水し、冷水出口温度設定を14℃から15℃に緩和して還水される場合は、更に 14%程度の 熱負荷を処理することが可能となります。  また、蓄熱時間に余裕があり、蓄熱槽利用温度差も拡大[例えばΔt=7deg(7℃→14℃)からΔt=8deg (7℃→15℃)]できる場合には、蓄熱量も増やすことができるため、日積算負荷の増加にも対応することが 可能です。  ※注意点    二次側空調機の冷水出口温度を緩和すると、送風温湿度が所定の条件まで下がらず、室内環境が悪化する場合が    ありますので、室内の温湿度状況を確認しながら、換気量と冷水出口温度を調整してください。

3-3 熱源機運転時間の増加により蓄熱量を増加させる方法

 二次側空調機の処理能力に余裕があり、換気量を増やすことにより増加する熱負荷を処理することができる場合にも、日積算負荷の増加により蓄熱量が不足する場合があります。このような際、熱源機運転時間に余裕のある蓄熱運転をしている場合には、熱源機追い掛け運転時間を増やすことにより、蓄熱量の不足分を補うことが可能となります。
※注意点
 ピークカット運転等をしている場合、熱源機稼働のタイミングによっては最大需要電力(電力デマンド)が更新
   される可能性がありますので、ご留意ください。


3-4 熱源機から二次側空調機へ冷水を直送する方法

 熱源機からの冷水を蓄熱槽への蓄熱回路以外に二次側空調機への直送回路がある場合は、直送することで二次側空調機に供給する冷水温度を蓄熱槽を経由する場合より低くすることができるため、換気量を増やすことにより増加するピーク熱負荷を処理することができる場合があります。但し、冷熱供給の日量はほとんど変わりませんので、日積算負荷が不足する場合はご留意ください。

4.部分的な設備改修により空調負荷の増加に対処する方法例

 上記の通り、中央熱源方式、特に蓄熱空調は運用方法に柔軟性があり省エネ性の高い運転を実現できる一方、その運用方法を誤るとせっかくの性能を十分に発揮することができない場合があるため、運転状況を確認し運用改善を進めていくことが必要です。既存システムの場合、建設時のコストや機器性能等の制約から現在の標準的なシステムとは異なっているケースもあり、部分的な設備改修を行うことにより、空調負荷の増加に対処できると共に、より効率的な運転を実現できる可能性がございますので、下記に当てはまる場合には見直しをされることを推奨します。

4-1 二次側定流量制御から変流量制御への変更

 2000年代以前、汎用インバータが高価だったこともあり、二次側空調システムには定流量制御が一般的に採用されてきました(下記左図)。例えば、下図のように二次側空調機の往還温度差Δt=10deg(7℃→17℃)に設定したケースでは、定流量制御の場合、空調需要が少ない軽負荷時には、バイパス配管からの低温度の冷水(流量60%、7℃)が空調機からの還水(流量40%、17℃)と混合してしまい11℃の温度となって蓄熱槽に戻されるため、槽内の温度プロフィールが乱れると共に、蓄熱槽効率が低下し、蓄熱した熱を有効活用することができないため熱負荷に対応できない可能性もあります。そこで、右図のような変流量制御に改修することで、所定の往還温度差10degを確保することができ、蓄熱槽の有効活用とポンプ搬送動力の低減が可能となります。


4-2 熱源機の出口温度を一定にする、定温蓄熱制御

 熱源機が定流量の場合、熱源機入口温度が上下することで熱源機出口温度も上下してしまうため、蓄熱槽の低温側水温を乱す恐れがあり、二次側空調機に所定の冷水温度で供給できない場合には熱負荷を処理できない場合があります。
蓄熱槽の低温側水温を設定通りの水温とするために、下図のように吸込み三方弁制御による定温蓄熱制御を行うか、
変流量の熱源機を採用する
ことで、熱源機入口温度を適正に保つことが必要となります。




 蓄熱システムの運用変更・設備改修に関して、より詳細な情報をお求めの場合は、当センターのパンフレット
「快適に節電~蓄熱の有効性~」をご覧ください。

【印刷用】コロナ禍における換気風量増加への対応

 
この件に関するお問い合わせ先
一般財団法人 ヒートポンプ・蓄熱センター 蓄熱技術部 塚本、井上
〒103-0014 東京都中央区日本橋蛎殻町1丁目28番5号 ヒューリック蛎殻町ビル6階
TEL:03-5643-2403 FAX:03-5641-4501